相続が発生すると、多くの手続きが必要になります。その中でも重要なのが「預金名義の変更」です。被相続人(亡くなった方)の預金は、そのままの名義で放置しておくと、後々のトラブルの原因となることが少なくありません。
この記事では、銀行預金の相続手続きの流れ、ケース別の必要書類、期限や時効の考え方、残高が少ないときの扱いまでをまとめます。
先に答えると、銀行預金の相続手続きは「銀行に連絡→書類をそろえる→相続届を出す→払戻し・名義変更」の4段階です。いつまでに済ませるという法律上の期限はありません。銀行から届いた相続届の書き方や、書類が戻ってくる例は銀行から相続手続きの書類が届いたらで扱っています。
先に結論:銀行預金の相続手続きは4ステップ
銀行に連絡した時点で口座は凍結され、公共料金の引き落としも止まります。連絡の前に、引き落とし先の変更と、当面必要な現金の見込みを立ててください。
遺産相続で銀行預金に相続人全員の手続きが要る理由
「自分の取り分だけ先に下ろしたい」と銀行に頼んでも、原則として応じてもらえません。預金が遺産分割の対象になるからです。
最高裁判所大法廷の平成28年12月19日の決定で、普通預金や定期貯金は、相続と同時に法定相続分どおりに分かれるのではなく、遺産分割の対象になると判断されました。誰がいくら受け取るかは、相続人全員の話し合いで決まるという考え方です。
銀行の預金規定も、これに合わせています。たとえば岐阜県の高山信用金庫の規定(2026年10月1日改定)には、名義人の死亡を把握した後は「共同相続人全員の総意」による請求でなければ払い戻さない、とあります。同じ規定には、仮払い制度(民法909条の2)と家庭裁判所の保全処分は例外とも書かれています。
実際に銀行で誰が手続きをするかは、遺言書や遺産分割協議書があるかで変わります。
| あなたの状況 | 銀行で手続きする人 | 印鑑証明書が要る人 |
|---|---|---|
| 遺言書がある | 預金を相続する人(遺言執行者がいれば執行者) | 預金を相続する人(または遺言執行者) |
| 遺産分割協議書がある | 預金を相続する人。相続届に全員の署名を求める金融機関もある | 相続人全員 |
| 遺言書も協議書もない | 相続人全員 | 相続人全員 |
| 家庭裁判所の調停・審判で決まった | 預金を相続する人 | 預金を相続する人 |
| 分ける前に当面のお金だけ要る | 請求する相続人1人(仮払い制度) | 請求する人(書類は金融機関により異なる) |
銀行預金の相続手続きの流れ(名義変更・払戻しの手順)
まずやるべきこと:銀行への通知
相続が発生したら、まず初めに行うべきことは、被相続人が利用していた銀行に通知することです。銀行に相続が発生したことを伝えることで、預金口座が凍結され、無断での引き出しや口座利用を防止することができます。
通知時に必要な情報は以下の通りです。
- 被相続人の氏名と口座番号: どの口座が相続対象となるかを明確にするために必要です。
- 相続人の連絡先: 以降の手続きに関する連絡がスムーズに行えるよう、相続人の情報を伝えておきます。
- 死亡診断書のコピー: 被相続人の死亡を証明するための書類として必要になります。
預金口座の凍結とその解除方法
預金口座が凍結されると、相続人でも自由に引き出すことができなくなります。凍結を解除するには、相続手続きを終えて名義変更(または払戻し)を完了させる必要があります。
凍結解除には、数日から数週間かかることがありますので、早めに手続きを進めることが大切です。また、銀行によってはオンラインで手続きを行える場合もあるため、事前に確認しておくと良いでしょう。
相続の預金は「名義変更」か「解約・払戻し」か
一般に「相続の預金名義変更」と呼ばれますが、銀行の相続届では、受け取り方を次のどちらかから選ぶのが基本です。どちらを選べるかは、預金の種類と金融機関で違います。
- 解約・払戻し:口座を閉じ、残高を相続人の口座へ移します。その銀行に口座がない相続人でも、他の金融機関の口座で受け取れる銀行があります。ゆうちょ銀行の場合、他の金融機関の口座で受け取ると約3〜4週間かかると案内されています。
- 相続人の名義に書き換える:定期預金を満期まで置いておきたいときなどに使います。受け付ける預金の種類は金融機関ごとに違うため、最初の電話で「名義を書き換えられる預金はどれか」を聞いておきます。
相続した預金の必要書類:ケース別の早見表
どのケースで何が要るか
相続した預金の必要書類は、遺言書と遺産分割協議書があるかどうかで決まります。自分に当てはまる列を縦に見てください。
| 書類 | 遺言書がある | 協議書がある | どちらもない |
|---|---|---|---|
| 銀行所定の相続届(依頼書) | 要る | 要る | 要る |
| 遺言書(公正証書以外は検認調書か検認済証明書も) | 要る | - | - |
| 遺産分割協議書(相続人全員の署名・押印) | - | 要る | - |
| 亡くなった方の戸籍 | 死亡が分かるもの | 出生から死亡まで | 出生から死亡まで |
| 相続人全員の戸籍 | - | 要る | 要る |
| 印鑑証明書 | 相続する人(執行者がいれば執行者) | 相続人全員 | 相続人全員 |
印鑑証明書は返却されない金融機関もあるため、「相続人の人数×手続きする金融機関の数」を目安にすると途中で足りなくなりません。相続人3人で口座が2行なら6通です。戸籍の束は、法務局の法定相続情報一覧図の写し(交付は無料)に置き換えると、銀行ごとに取り直さずに済みます。
書類ごとの役割
窓口や案内文でよく出てくる書類と、その役割は次のとおりです。相続専用窓口のある銀行なら、専用の「相続手続依頼書」も併せて記入します。
口座が複数の銀行にあるなら、法務局で「法定相続情報一覧図の写し」を作っておくと戸籍の束を各行に回さずに済みます。交付は無料で、必要枚数をまとめて受け取れます。
なお、遺言書がある場合や、法定相続分どおりに分ける場合は、遺産分割協議書を求められないこともあります。何をそろえるかは、口座のある金融機関に先に電話で確認してから動くと二度手間になりません。電話のあと銀行から届く相続届などの書き方は銀行から相続手続きの書類が届いたらで解説しています。
凍結中にお金が必要なとき:預貯金の仮払い制度
遺産分割が終わっていなくても、相続人が単独で一定額まで払い戻せる制度が2019年7月から使えます。葬儀費用や当面の生活費に充てられます。
1,200万円 × 1/3 × 1/4(子の法定相続分)=100万円 → 100万円まで請求可
今日の一歩:仮払いを窓口で請求する手順
どこへ:口座のある支店(取引店)の窓口へ。ATMや電話だけでは手続きできません。行く前に電話で「遺産分割前の預貯金の払戻し制度を使いたい」と伝え、その金融機関で必要な書類と所要日数を確認しておくと二度手間になりません。
持ちもの:被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(法務局で交付を受けた法定相続情報一覧図の写しでも可。交付は無料)/相続人全員の戸籍謄本/請求する人の印鑑証明書と実印/通帳・証書/本人確認書類。必要書類は金融機関により異なります。
窓口で伝える3点:
① 遺産分割前の払戻し(民法909条の2)を使いたいこと。
② いくら必要か、何に使うか(葬儀費用・入院費・当面の生活費など)。
③ 他の相続人にも請求することを伝えてあること。
上限では足りない・進まないときの次の一手:上限は1つの金融機関につき150万円です。複数の金融機関に口座があれば、それぞれに請求できます。それでも足りない場合は、家庭裁判所に遺産分割の調停・審判を申し立てたうえで、仮分割の仮処分を求める方法があります。時間がかかるため、葬儀社や病院に支払時期を相談するほうが早いこともあります。
期限:仮払いの請求自体に期限はありません。ただし相続税の申告・納付は相続の開始を知った日の翌日から10か月以内、不動産の相続登記は取得を知った日から3年以内です。
相続した預金の手続きに期限はある?時効・休眠預金との関係
銀行預金の相続手続き(払戻し・名義変更)そのものに、法律で決まった期限はありません。全国銀行協会の手続きの案内にも、期限の記載はありません。
金融庁は、10年以上動いていない休眠預金になった後でも「期限はありません。いつでも引き出すことができます」と案内しています。預金者が亡くなっている場合は、金融機関所定の手続きで相続人が引き出せます。
ただし、預金の扱いが関係する期限はいくつかあります。銀行の案内に「3か月以内」「10か月以内」とあるのは、次の期限に合わせた目安です。
| 期限 | 何の期限か | 預金との関係 |
|---|---|---|
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認(相続の開始を知った時から) | 預金を引き出して使うと、相続財産の処分として単純承認とみなされることがある(民法921条1号) |
| 4か月以内 | 準確定申告(亡くなった方の所得税) | 確定申告が必要だった人の場合だけ |
| 10か月以内 | 相続税の申告・納付(相続の開始を知った日の翌日から) | 遺産が基礎控除を超える場合だけ。死亡日時点の残高証明書が要る |
| 最後の取引から10年 | 休眠預金等になる | 2009年1月以降に最後の取引があった預金が対象。休眠預金になっても引き出せ、期限はない |
| 相続開始から10年 | 遺産分割で生前贈与(特別受益)や寄与分を考慮できる期間(民法904条の3) | 10年を過ぎて分けると、原則として法定相続分(遺言の指定があればその割合)で分ける |
遺産相続の預金が時効で消えることはある?
相続した預金が時効でなくなるのでは、と心配して調べる方は少なくありません。上のとおり、金融庁は休眠預金も期限なく引き出せると案内しています。一方で、放っておくと手間は増えます。
- 相続人の誰かが亡くなると、その人の相続人も手続きに加わり、戸籍と印鑑証明書が増える
- 休眠預金になると窓口での手続きが基本になり、通常の預金より時間がかかることがある(金融庁)
- 相続開始から10年を過ぎると、遺産分割で生前贈与や介護の貢献を原則として主張できなくなる
相続税の申告が要りそうなら、10か月から逆算して、まず死亡日時点の残高証明書を頼んでおくと落ち着いて進められます。頼み方と手数料は銀行の残高証明書の取り方にまとめました。
銀行預金が少額のときの相続手続き
残高が数万円や数十万円でも、手続きの基本は同じです。少額なら書類を省ける、という全国共通のルールはありません。ただし金融機関によっては、預金規定で少額のときの扱いを決めています。
たとえば山口県の西京銀行は、2024年10月1日改定の預金規定で、名義人の預金口座の合計残高が100万円未満のときは、相続人全員の請求という原則によらず「当行所定の取扱い」ができるとしています。相続人の1人に払い戻した場合、ほかの相続人は二重に請求できないとも定めています。具体的な書類は、同行の問い合わせ先で確認する形です(2026年10月12日に同行の公式資料で確認)。
少額の扱いがあるか、いくら未満が対象かは、金融機関の規定しだいです。最初の電話で「残高が少ない場合の簡単な手続きはありますか」と聞いてください。少額の扱いがない場合も含めて、使える方法を並べると次のとおりです。
| 方法 | 使える場面 | 手続きする人 | 気をつけること |
|---|---|---|---|
| 通常の相続手続き | 金額に関係なく | ケースに応じて相続人全員か、預金を相続する人 | 戸籍と印鑑証明書をそろえる手間は、残高が少なくても同じ |
| 金融機関独自の少額の扱い | 規定に定めがあり、対象額未満のとき | 金融機関所定(相続人の1人で受け取れる場合がある) | ほかの相続人と話をつけてから使う |
| 仮払い制度(民法909条の2) | 遺産を分ける前に当面のお金が要るとき | 請求する相続人1人 | 上限は「残高×1/3×法定相続分」で、1つの金融機関につき150万円まで。残高の全額は下ろせない |
| 協議書を作って代表者が受け取る | 口座が複数の銀行にあるとき | 預金を相続する人(協議書には全員の実印) | 実印を一度集めれば、複数の銀行に同じ協議書で出せる |
相続放棄を考えている場合は、少額でも引き出して使わないでください。相続財産の処分にあたり、放棄できなくなるおそれがあります。葬儀費用などで仮払いを使うときの注意は親が亡くなったら銀行口座はすぐ止まる?凍結の時期と葬儀費用の払い戻しで説明しています。
どの銀行に口座があるか分からないとき
通帳が見当たらず、口座の場所が分からないときは、次の順で手がかりを探します。
- 自宅にある通帳、キャッシュカード、銀行名の入った封筒やカレンダー
- 郵便物(残高のお知らせ、投資信託の報告書、保険の通知)
- 確定申告の控えや、固定資産税・公共料金の引き落とし口座の記載
- スマートフォンやパソコンの、ネットバンキングのアプリ・メール
心当たりの銀行が見つかったら、その銀行へ「残高証明書」と「取引履歴」を請求します。相続人は、ほかの相続人の同意がなくても、1人で請求できます(最高裁平成21年1月22日判決)。請求には、亡くなった方の戸籍や、ご自身の本人確認書類などが必要です。一度の請求で調べられるのは、その銀行の分だけです。複数の銀行を調べるときは、銀行ごとに請求します。ゆうちょ銀行やネット銀行も、同じ考え方です。
取引履歴が見つかると、その銀行から別の銀行へお金が動いた記録が分かり、次の手がかりになることがあります。残高が分かれば、相続税の申告が必要かどうかの見当もつきます。
名義変更がスムーズに進まないケースとその対処法
相続人間で意見がまとまらない場合
相続人間で遺産分割に関する意見がまとまらない場合、預金名義変更手続きが滞ることがあります。特に、相続人が複数いる場合、全員の合意が得られないと遺産分割協議書が作成できず、銀行での手続きが進まないことがあります。
- 調停の利用: 家庭裁判所での調停を利用し、第三者の立会いのもとで話し合いを進めることが可能です。これにより、相続人間の合意形成がスムーズになる場合があります。
- 専門家への相談: 弁護士や司法書士などの専門家に相談し、論点を整理してもらいながら調整を進める方法もあります。
必要書類が揃わない場合
戸籍がそろわない原因はだいたい決まっています。被相続人が何度も転籍している、相続人に兄弟姉妹が含まれる、相続人の一人が行方不明、のいずれかです。前の2つは戸籍を順にたどれば解決します。行方不明の相続人がいる場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てないと遺産分割協議自体が成立しません。
預金名義変更後にやるべきこと
他の相続手続きと並行して進めるべきこと
- 不動産の名義変更: 不動産を相続する場合、相続登記を行い、不動産の名義を変更します。法務局での手続きが必要です。
- 相続税の申告と納税: 相続税が発生する場合、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に申告と納税を行います。相続税申告書を作成し、税務署に提出します。
- 保険金の受け取り手続き: 生命保険の受取人が相続人となっている場合、保険金の受け取り手続きを進めます。保険会社に連絡し、必要書類を提出します。
相続税の申告がある場合の注意
相続税の申告では、被相続人の口座から過去に出ていった大口の出金も確認されます。名義は子や孫でも実質は被相続人の財産だった「名義預金」と判断されると、相続財産に加算されます。通帳とその原資が説明できるかを、申告前に整理しておいてください。
相続した実家の売却を検討している場合は、相続した家をお得に売却するテクニック:手順と注意点も参考になります。
よくある質問
銀行預金の相続手続きは、相続人の代表1人でできますか
遺言書か遺産分割協議書があれば、預金を相続する人が手続きできるのが基本です。どちらもなければ、相続届に相続人全員の署名と実印、全員の印鑑証明書が要ります。協議書があっても相続届に全員の署名を求める金融機関もあるので、最初の電話で確かめてください。
相続した預金を名義変更しないまま放っておくとどうなりますか
口座は止まったままで、入金も引き落としもできません。手続きに期限はありませんが、相続人が亡くなると手続きに加わる人が増えます。10年動かないと休眠預金になり、引き出しはできても窓口での手続きが基本になります。
相続した預金の払戻しに期限や時効はありますか
法律上の期限はありません。金融庁も、休眠預金になった後でも期限なく引き出せると案内しています。ただし相続放棄は3か月、相続税の申告は10か月という別の期限があり、預金の調べ方や使い方に関わります。
残高が数千円の口座も相続手続きが必要ですか
お金を受け取るには、金額にかかわらず手続きが必要です。少額向けの扱いを預金規定で決めている金融機関もあるので、最初に聞いてみてください。遺産分割協議書を作るなら、「本協議書に記載のない預貯金は〇〇が取得する」と一文入れておくと、あとから小さな口座が見つかっても協議をやり直さずに済みます。
銀行ごとに戸籍の束を用意し直す必要がありますか
法務局で法定相続情報一覧図の写しを取れば、必要な枚数を無料で交付してもらえ、多くの金融機関で戸籍の束の代わりに使えます。協議書・印鑑証明書・相続届は一覧図では代わりになりません。
参考にした公的情報:全国銀行協会「預金相続の手続の流れ」「預金相続の手続に必要な書類」、金融庁「休眠預金等活用法」、法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」、国税庁タックスアンサーNo.4205・No.1270、裁判所「相続の放棄の申述」、e-Gov法令検索(民法904条の3・909条の2・921条)、最高裁判所大法廷 平成28年12月19日決定、高山信用金庫「通知預金規定」、西京銀行「預金規定等の一部改定のお知らせ」、ゆうちょ銀行「相続手続きの流れ」(いずれも2026年10月確認)。
あわせて読みたい
- 相続でやることチェックリスト:簡単10のステップ
- 認知症の親の相続:注意点と合法的な手続き
- 相続財産が現金のみの場合の注意点とメリット・デメリット
- 遺産分割協議書を銀行に提出するとき|相続届との関係と原本還付
- 遺産分割協議書の書き方とひな形(Word無料ダウンロード)
- 戸籍の附票の取り方|相続登記で「住所がつながらない」ときの解決策
- 金融機関ごとの相続手続き:三菱UFJ銀行・名古屋銀行・あいち銀行・ゆうちょ銀行・十六銀行・大垣共立銀行・東海労働金庫の手続きガイド
- 信金・JAの相続手続き:岡崎信用金庫・碧海信用金庫・西尾信用金庫・岐阜信用金庫・東濃信用金庫・JAあいち中央・JAぎふ・JAにしみの・JAめぐみの・JAひだの手続きガイド
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
