平日の午前、市役所の窓口で「お母様名義の定期預金を解約するには、まず後見人を選任していただく必要があります」と言われ、その場で言葉に詰まった――。今すぐ動きたくても、家庭裁判所への申立てから後見人が決まるまでには数ヶ月かかることも珍しくありません。しかも、いったん始まった後見は、本人が亡くなるまで原則としてやめられません。
成年後見のデメリットは、始めると原則やめられないこと、報酬などの費用が続くこと、家族が後見人に選ばれるとは限らないこと、財産を自由に動かせなくなることです。2026年6月に成立した法改正で「やめられない」などは見直されますが、施行日はまだ決まっていません。この記事では、改正で変わる点・変わらない点と、報酬が続いた場合の合計額の目安もあわせて整理します。
📌 制度改正に関するお知らせ(2026年7月時点)
本稿で解説している成年後見制度(法定後見)は、2026年6月17日に成立した民法等の改正により、将来的に保佐の制度とともに廃止され、新設される「補助」の制度に一元化されることが決まっています。施行日は公布日(2026年6月24日)から2年6か月を超えない範囲内で政令により定められる予定で、本稿執筆時点では未定です。本稿の内容は現行制度(改正前)に基づく説明です。詳細は法務省の発表など最新情報をご確認ください。
✅ この記事の結論(30秒まとめ)
- 成年後見制度(法定後見)は判断能力低下”後”の制度で、後見人への報酬など費用は本人が亡くなるまで継続的にかかります
- 家族が後見人に選ばれるとは限らず、司法書士・弁護士等の専門職が選任されるケースが多いのが実情です
- 名古屋家庭裁判所は本庁と一宮・半田・岡崎・豊橋の4支部に分かれ、申立ては本人の住所地を管轄する家裁で行います
- 判断能力が低下する前なら、任意後見や家族信託など、本人の意思で決められる備えもあります
「調べてみたら、成年後見の申立てには数ヶ月かかり、後見人に選ばれるかどうかも分からず、しかも一度始めたら報酬がずっと続く」。多くの方が漠然と感じているのは、この”先の見えなさ”です。本当につらいのは手続きの煩雑さそのものよりも、いつまで・いくら費用がかかるのか誰も明確に答えてくれないまま進んでいくことかもしれません。だから、この記事では、法定後見(成年後見)の負担の全体像と、お住まいの地域を管轄する名古屋家庭裁判所の窓口、そして判断能力が低下する前に選べる備えの選択肢までをまとめました。
法定後見(成年後見)が始まると、何が変わるか
成年後見制度(法定後見)は、判断能力が既に低下した方について、家庭裁判所が後見人等を選任し、本人に代わって財産管理や契約行為を行える状態にする制度です。認知症による預金口座の凍結を解除する際の代表的な選択肢の一つでもあります(凍結の基本的な仕組みは認知症による口座凍結とは?銀行の判断基準と防ぐ7つの対策で解説しています)。制度自体は本人を保護するためのものですが、実際に利用した家族から聞こえてくるのは次のような負担です。
費用が本人が亡くなるまで続く。 後見人(特に司法書士・弁護士等の専門職)への報酬は、家庭裁判所の審判で本人の財産状況等に応じて決定され、後見が終了するまで、つまり原則として本人が亡くなるまで毎月発生し続けます。申立て時の費用(収入印紙800円・登記手数料2,600円、鑑定が行われた場合の費用など)は、成年後見の申立て費用はいくら?期間・鑑定費用・必要書類【令和7年データ】にまとめています。
後見人を家族が選べるとは限らない。 申立て時に候補者を立てることはできますが、最終的に誰を選任するかは家庭裁判所の判断です。財産状況や親族間の意見の違いなどによっては、親族ではなく専門職が選ばれることも少なくありません。
財産が硬直化する。 後見人は本人の財産を「維持すること」が基本方針になるため、相続税対策としての生前贈与や資産の組み替え、投資性の高い運用などは、家庭裁判所の許可がなければ基本的にできなくなります。たとえば「実家を売って介護施設の入居費用に充てたい」といった場合でも、居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要で、判断から実行まで想定より時間がかかることがあります。
なお、家庭裁判所に出す成年後見の申立書の作成は司法書士・弁護士の業務で、申立ての代理は弁護士の業務です。手続きを専門家に頼みたい場合は、司法書士・弁護士にご相談ください。申立ての具体的な流れ・必要書類・費用の詳細は認知症で凍結された銀行口座を解除するには?成年後見制度の手続き・費用・注意点を解説で詳しく解説していますので、実際に手続きを検討されている方はあわせてご覧ください。
成年後見制度のデメリットを5つの表で確認
出典:最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 ―令和7年1月~12月―」、法務省「成年後見制度」の案内(2026年10月時点)。
2026年の民法改正で、成年後見のデメリットはどう変わる?変わる点・変わらない点
2026年6月17日に成立した民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)で、成年後見の仕組みは見直されます。後見と保佐をなくして「補助」に一本化し、本人に必要な範囲で使える制度にする内容です。今のデメリットのうち、何が変わり、何が残るかを、法務省の概要をもとに並べました。
いつから変わる?今、申し立てる場合は
成年後見の見直しは、公布の日(2026年6月24日)から2年6か月を超えない範囲で、政令で決める日に始まります。2026年10月時点で、施行日は決まっていません。すでに後見や保佐を使っている人は、施行後に補助への移行や取消しの申立てなどで対応する経過措置が設けられています(法務省)。
預金が止まって施設の費用が払えないなど、いま困っていることがあるなら、施行を待たずに今の制度で手続きを進めることになります。申立ての手順や書類は成年後見の申立てにまとめています。
「費用が続く」を数字で見る|報酬の目安と年数ごとの合計
後見人への報酬は、後見人の申立てを受けて家庭裁判所が額を決め、本人の財産から払われます(民法862条)。横浜家庭裁判所が公表している目安をもとに、続いた年数ごとの合計を計算しました。
報酬が何年続くかは、本人がいつまで暮らしを続けるかで変わります。施設の費用などと並べて、本人の年金と預金で何年まかなえるかを先に見ておくと、申立ての前に家族で話し合いやすくなります。
名古屋家庭裁判所の管轄地域一覧(本庁・一宮・半田・岡崎・豊橋支部)
成年後見の申立ては、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。愛知県内で名古屋家庭裁判所の管轄となる地域は、本庁のほか一宮・半田・岡崎・豊橋の4支部に分かれています。お住まいの市区町村がどの窓口の管轄になるかを、下表でご確認ください。
※2026年7月時点の情報です。出典:裁判所公式サイト(名古屋家庭裁判所 管内の裁判所所在地)。最新情報は裁判所公式サイトでご確認ください。
たとえば一宮市・稲沢市・岩倉市などにお住まいの場合は一宮支部が申立ての窓口になり、地域の公証役場も一宮公証役場が対応します。半田市・常滑市・知多市など知多半島エリアは半田支部の管轄で、半田公証役場と重なります。同様に、岡崎支部は岡崎・豊田・西尾の3つの公証役場、豊橋支部は豊橋・新城の2つの公証役場と対応地域がほぼ一致しています。当社では9つの公証役場エリアについて、公正証書遺言や任意後見契約の作り方をそれぞれまとめていますので、お住まいの地域の記事もあわせてご覧ください。
判断能力が低下する前にできる備え(任意後見・家族信託など)
ここまで見てきた負担――費用の継続、後見人を選べないこと、財産の硬直化――は、いずれも判断能力が低下した”後”に法定後見を使うことで生じるものです。本人に判断能力があるうちなら、法定後見とは別の方法も検討できます。
任意後見。 本人が元気なうちに、将来の後見人と支援内容をあらかじめ契約で決めておく制度です。公正証書での作成が法律上必須で、契約時点ではなく判断能力低下後に家庭裁判所が監督人を選任した時点から効力が生じます。誰に託すかを本人の意思で決められる点が、法定後見との大きな違いです。詳しくは任意後見契約を公証役場で作る完全ガイドをご覧ください。
家族信託。 保有する不動産や預貯金の管理を、契約に基づいてあらかじめ家族に託しておく仕組みです。判断能力が低下した後も、信託の範囲内であれば家庭裁判所を介さず家族の判断で管理を続けられるため、賃貸物件の契約更新や修繕といった日常的な財産管理の柔軟性を保ちやすいのが特徴です。詳しくは家族信託で親の資産凍結を防ぐで解説しています。
入っている保険の確認。 法定後見が始まると、本人名義の保険を解約する・新しく契約するといった判断は後見人が行い、家庭裁判所の監督を受けながら進めることになります。財産に大きく影響する解約や契約は、事前に家庭裁判所へ相談するよう求められるのが一般的です。また、判断能力が低下した後は、本人が新たに保険に加入することも難しくなります。すでに保険に入っている場合は、元気なうちに契約者・受取人と、指定代理請求人(本人が請求できないときに代わって請求できる人)が誰になっているかを確認しておくと、いざというときの請求で困りにくくなります。
任意後見や家族信託の契約、保険の受取人などの見直しは、本人に判断能力があるうちに本人が行うものです。どれが合うか、そもそも必要かは家族の状況で変わります。今どの段階にあるかは、後述のセルフチェックで確かめられます。
【実務のポイント】
最高裁判所の令和7年の統計では、後見人等に選ばれたのは親族が約16.4%、親族以外が約83.6%でした。親族以外の内訳は、司法書士が約33.5%、弁護士が約24.9%、社会福祉士が約20.4%です。「家族の中の誰かが後見人になって、これまで通り財産を管理してくれるはず」というイメージのまま申立てをすると、実際の運用とのギャップに戸惑うご家族も少なくありません。
こんな方には、この記事の内容は不要です
すでに判断能力の低下が進んでおり、銀行口座の凍結など緊急に対応が必要な状況にある場合は、この記事で紹介しているような予防的な備え(任意後見・家族信託等)は選べません。その場合は、実際に家庭裁判所へ成年後見の申立てを行う必要があります。具体的な手続きは認知症で凍結された銀行口座を解除するには?で解説していますので、あわせて弁護士・司法書士へのご相談もご検討ください。
今日の一歩:すでに口座が止まっている場合、申立ての準備はこう進める
申立先は本人の住所地を管轄する家庭裁判所です(前掲の管轄表でご確認ください)。申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族などで、身寄りのない方については市区町村長が申し立てる仕組みもあります。まずは管轄の家庭裁判所の後見係(手続案内)に電話し、申立書一式と診断書の書式を取り寄せるところから始めます。
電話で伝える3点は、①本人の住所地(管轄がそこで合っているかの確認) ②今すぐ必要になっている理由(定期預金の解約、施設の入居費用など) ③後見人の候補者を立てるつもりがあるかどうか、です。
そろえる書類は、家庭裁判所の書式による診断書、本人の戸籍謄本と住民票、候補者を立てる場合はその方の住民票、法務局で取る「登記されていないことの証明書」、財産目録とその裏づけ(通帳の写し、不動産の登記事項証明書と固定資産評価証明書、保険証券)、収支予定表とその裏づけ(年金額決定通知書、施設利用料の請求書など)です。診断書には、ケアマネジャーなど本人の生活を見ている方が書く「本人情報シート」を添える運用になっており、これがあると医師が状態を判断しやすくなります。
つまずいたときの次の一手。かかりつけ医から「この書式は書けない」と言われた場合は、もの忘れ外来や精神科など後見用の診断書を扱う医療機関に相談します。親族の間で候補者が決まらない場合でも、申立てそのものは進められます(誰を選任するかは家庭裁判所が決めます)。
時間の目安:申立てから後見人が決まるまで数か月かかることがあり、その間、止まっている口座は動かせません。施設費用などをご家族が立て替える場合は、誰がいつ何をいくら払ったかと領収書を残しておいてください。後の精算で必要になります。
セルフチェック|まだ”備える”段階か、それとも申立てが必要な段階か
次の5つのうち、当てはまる(YES)ものはいくつありますか。
- ご本人は日常生活で大きな判断の間違いをしていない
- まだ正式に認知症等の診断を受けていない、または診断を受けていても軽度である
- 銀行の窓口で「本人の意思確認ができない」と言われたことはない
- 本人名義の口座や不動産の管理を、今のところ本人の同意を得て家族が把握できている
- 今すぐ家庭裁判所へ申立てが必要な緊急の状況ではない
YESの数で見る、今の状況
4〜5個YES:まだ十分に余裕があります。任意後見や家族信託など、今のうちに備えを考えておける段階です。生前対策診断でご自身に合う備えを確認してみてください。
2〜3個YES:一部に気になる兆候があります。先延ばしにするほど選べる選択肢は狭まるため、早めに生前対策診断で今できることを確かめておくと安心です。
0〜1個YES:すでに判断能力の低下が進んでいる可能性が高い状況です。この記事のような予防的な備えではなく、実際に家庭裁判所への成年後見の申立てを検討すべき段階です。こちらの記事や弁護士・司法書士へご相談ください。
よくある質問
Q. 成年後見のデメリットは、法改正でなくなりますか?
2026年6月に成立した改正で、必要がなくなれば終えられる、後見人を代えやすくなる、といった見直しが入ります。ただし施行日は2026年10月時点で決まっておらず、それまでは今の制度のままです。報酬が本人の財産から払われる点や、誰を選ぶかを家庭裁判所が決める点は、改正後も変わりません。
Q. 子どもなど家族が成年後見人になることはできますか?
候補者として申立てはできますが、最終的に選任するのは家庭裁判所です。財産の規模や親族間の状況によっては、司法書士・弁護士等の専門職が選任されることも多く、必ず家族が選ばれるとは限りません。
Q. 申立てにはどのくらい費用がかかりますか?
収入印紙(申立手数料)800円程度、登記手数料2,600円程度に加え、鑑定が必要な場合は5万円〜10万円程度が目安とされていますが、事案により変動します。後見が始まった後の後見人報酬も本人が亡くなるまで継続的にかかるため、あわせて家庭裁判所や税理士等にご確認ください。
Q. 名古屋家庭裁判所の管轄はどこで確認できますか?
本記事の管轄地域一覧表でご確認いただけます。より詳しい最新情報は裁判所公式サイトでもご案内されています。
Q. まだ元気だから、備えを考えるのは早いのでは?
任意後見は本人が元気なうちにしか結べない契約です。「まだ早い」のではなく、迷っている間に判断能力が低下すると、そもそも契約という選択肢自体がなくなってしまいます。早すぎるということはありません。
Q. 行政書士に申立てを代理してもらうことはできますか?
できません。家庭裁判所に出す成年後見の申立書の作成は司法書士・弁護士、申立ての代理は弁護士の業務です。申立書の作成は司法書士・弁護士へ、代理が必要な場合は弁護士へご相談ください。
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※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税額計算・法的判断や、特定の保険商品の推奨を行うものではありません。費用・金額は2026年7月時点の目安であり、事案により異なります。成年後見の申立書の作成は司法書士・弁護士、申立ての代理は弁護士、税務判断は税理士にご相談ください。保険についてのご相談は提携する乗合代理店をご紹介する場合があり、その際に当社が紹介料を受け取ることがあります。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
