後見制度支援信託とは|成年後見の財産管理で使われる仕組みをわかりやすく解説

「お母様の財産のうち、まとまった金額を信託銀行に信託していただくことになります」。家庭裁判所の後見センターの窓口、あるいは選任された後見人(専門職)からそう告げられ、初めて「後見制度支援信託」という言葉を聞いた――という方は少なくありません。「信託」と言われても、証券会社の投資信託のようなものなのか、財産を取り上げられてしまうのか、その場では実態がつかめず、相槌を打つのが精一杯だった、という声をこれまで何度も聞いてきました。「本人の財産を守るための制度です」と説明されても、具体的に何がどう変わるのか、家族としてどこまで自由にお金を動かせるのかが分からないまま、話だけが進んでいく不安を感じる方も少なくありません。

✅ この記事の結論(30秒まとめ)

  • 本人の財産のうち、日常生活費に必要十分な金額は後見人が管理し、通常使用しないまとまった金銭は信託銀行等に信託する仕組みです
  • 信託財産の払戻し・解約には、あらかじめ家庭裁判所が発行する指示書が必要で、後見人の判断だけでは動かせません
  • 目的は、後見人による財産の使い込み・不正を防ぎ、本人の財産を適切に管理・利用することです
  • 信託銀行が身近にない地域向けに、地域の金融機関が同様の仕組みを提供する「後見制度支援預金」もあります

「後見制度支援信託を勧められたが、仕組みがよく分からない」「デメリットはないのか、拒否できないのか知りたい」。多くの方が漠然と感じているのは、この”仕組みの見えなさ”です。だからこの記事では、後見制度支援信託の正確な仕組みと目的、よく似た「後見制度支援預金」との違い、利用を打診されやすいケース、メリット・デメリットまでを、裁判所の公式資料をもとに整理しました。

目次

後見制度支援信託とは|日常生活費は後見人が管理し、まとまった財産は信託銀行等へ

後見制度支援信託とは、成年被後見人(以下、本人)の財産のうち、日常的な支払いをするのに必要十分な金銭は預貯金として後見人が管理し、通常使用しない金銭は信託財産として信託銀行等に信託する仕組みです。家庭裁判所の公式リーフレットでも「ご本人の財産の適切な管理・利用のための方法の一つ」と説明されています(出典:裁判所公式サイト「後見制度支援信託について」同リーフレット「ご本人の財産の適切な管理・利用のための後見制度支援信託のご説明」)。信託した財産は元本が保証され、預金保険制度の保護対象にもなります。

後見制度支援信託の基本的な流れ

1

本人の財産を洗い出す

預貯金・年金などの収入と、生活費・医療費など日常的な支出額を整理し、家庭裁判所へ報告します。

2

日常生活費相当額は、後見人が管理する口座に残す

生活費・医療費など日々の支払いに必要十分な金額を、後見人が自由に出し入れできる通常の口座で管理します。

3

通常使用しない、まとまった金銭は信託銀行等に信託する

当面使う予定のない金銭を、信託銀行等に信託財産として預けます。対象は金銭に限られ、不動産・動産は対象になりません。

4

払戻し・解約には、家庭裁判所の指示書が必要

信託財産からまとまったお金を引き出す、あるいは信託契約を解約するには、あらかじめ家庭裁判所が発行する指示書が必要です。後見人の判断だけでは動かせません。

⚠️ 最も誤解されやすいポイント

信託銀行等に信託した金銭は、後見人の判断だけで自由に引き出すことはできません。まとまった医療費や介護施設の入居費用などが必要になった場合でも、あらかじめ家庭裁判所に事情を報告し、指示書の発行を受けたうえで、初めて払戻しの手続きに進めます。「いざという時にすぐ動かせるお金」ではない、という点をご家族の間で共有しておくことが大切です。

後見制度そのものが始まると、財産管理や後見人選任にどのような負担が生じるのかは、成年後見制度の費用・デメリットと「使いにくさ」|認知症になる前にできる備えで全体像を整理していますので、あわせてご覧ください。

制度の目的|後見人による財産の使い込み・不正を防ぐための仕組みの一つ

後見制度支援信託が設けられている目的は、後見人による財産の使い込みや不正な流用を防ぎ、本人の財産を適切に管理・利用することにあります。成年後見制度では、後見人が本人に代わって財産を管理する権限を持つ一方、その使い方を日常的にチェックする仕組みが必要です。まとまった金銭を信託銀行等に移し、払戻しに家庭裁判所の指示書を必須とすることで、後見人が単独で高額な金銭を動かせない体制をつくるのが、支援信託の狙いです。

なお、財産の不正防止という同じ目的を果たす方法として、家庭裁判所が支援信託・支援預金を使わずに、弁護士・司法書士等の専門職を「後見監督人」として選任し、親族後見人の事務を継続的にチェックさせる運用が取られることもあります。どちらの方法が選ばれるかは、本人の財産状況や家庭裁判所の判断によって異なります。

支援信託の検討は、後見開始そのものの申立てが終わり、後見人が選任された後に進められます。申立てにかかる期間・費用・必要書類については、成年後見の申立てにかかる費用と期間|鑑定費用・必要書類の実際で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

後見制度支援預金との違い|信託銀行が身近にない地域でも使えるように

後見制度支援信託とよく似た制度に「後見制度支援預金(後見制度支援貯金)」があります。これは、信託銀行の店舗が身近にない地域でも同様の仕組みを利用できるよう、信用金庫や地方銀行など地域の金融機関が「預金」の形で提供しているものです(参考:公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート「後見制度支援信託と後見制度支援貯金」)。どちらも、本人の財産のうち日常的な支出に充てない金銭を後見人以外の管理下に置き、払戻しに家庭裁判所の指示書を必要とする点は共通しています。

項目 後見制度支援信託 後見制度支援預金(支援貯金)
法的な性質 信託(信託銀行等が受託者として管理) 預金(金融機関にそのまま預け入れ)
主な取扱機関 信託銀行等 信用金庫・地方銀行など地域の金融機関(取扱いの有無は金融機関により異なる)
払戻し・解約 家庭裁判所の指示書が必要 家庭裁判所の指示書が必要
元本保証・預金保険 元本保証、預金保険制度の対象 預金保険制度の対象
制度の位置づけ 都市部を中心に先行して整備 信託銀行の店舗が少ない地域でも利用できるよう、後年整備

※取扱いの有無・条件は金融機関により異なります。最新情報は各金融機関、または申立て先の家庭裁判所でご確認ください。

いずれの制度も、本人の財産を守るための選択肢という位置づけは同じです。どちらを利用するかは、本人が住むエリアで取扱いのある金融機関や、家庭裁判所の運用によって案内されます。すでに認知症などで口座が凍結され、成年後見制度の利用を検討している場合の全体的な手続きの流れは、認知症で凍結された銀行口座を解除するには?成年後見制度の手続き・費用・注意点を解説でも解説しています。

どんな場合に利用を打診されやすいか|対象となる財産の目安

支援信託・支援預金の利用を打診するかどうかの基準は、全国一律に金額で定められているわけではなく、家庭裁判所ごとの運用によります。一般的には、日常生活費として当面使う予定のない、まとまった預貯金・金融資産が本人にある場合に、家庭裁判所や専門職後見人から利用を勧められるケースが多いとされています。正確な基準は、申立てを予定している(または申立て済みの)家庭裁判所にご確認ください。

また、支援信託・支援預金の対象は金銭に限られます。裁判所のリーフレットでも「不動産・動産は、後見制度支援信託を利用することを目的として売却することは想定されていない」とされており、実家や自宅といった不動産、株式などの有価証券は対象外です(出典:前掲裁判所リーフレット)。株式などをお持ちの場合の扱いは、事案ごとに家庭裁判所が個別に検討します。

支援信託の利用が検討される場面では、信託契約の締結までの手続きを担うために、弁護士・司法書士等の専門職後見人が選任されることも少なくありません。専門職が後見人に選ばれるケースの実情や、後見人への報酬の考え方は、成年後見人の報酬はいくら?報酬付与の審判の仕組みと相場で詳しく解説しています。

メリット・デメリット|柔軟に動かせなくなる財産と、専門職後見人が関わるケース

支援信託・支援預金の最大のメリットは、後見人(特に親族後見人)による財産の使い込みや、判断ミスによる大きな損失から本人の財産を守れることです。まとまった金銭が後見人の目の届く範囲から切り離され、家庭裁判所のチェックを経なければ動かせなくなるため、後見人自身にとっても「疑いをかけられずに済む」という安心材料になります。

一方で、デメリットとして次のような点が挙げられます。

  • まとまった財産を、後見人の判断だけで柔軟に動かせなくなる
  • 払戻し・解約には家庭裁判所への報告書提出と指示書の取得が必要で、手続きに一定の時間がかかる
  • 信託契約の締結にあたり専門職後見人が選任される場合、その専門職への報酬が別途発生することがある
  • 対象は金銭に限られるため、不動産や自社株など金銭以外の資産が抱える課題は解決しない

特に、急な入院や介護施設の入居などでまとまった支出が必要になった場合、指示書の発行までに時間がかかると、家族が一時的に立て替えを検討せざるを得ない場面も起こり得ます。支援信託を利用する際は、当面の生活費をどの程度、後見人管理の口座に残しておくかを、事前に家庭裁判所や専門職としっかりすり合わせておくことが実務上のポイントです。後見制度全体でみられる、こうした「財産の硬直化」の傾向は、成年後見制度の費用・デメリットと「使いにくさ」でも解説しています。

【実務のポイント】専門職後見人は、契約締結後に交代することもある

家庭裁判所が支援信託・支援預金の利用を検討する事案では、信託(預金)契約の締結までの間、弁護士・司法書士等の専門職が後見人として選任される運用が広く行われています。契約締結後は、そのまま専門職が後見人を続けるケースと、財産管理の体制が整ったとして親族後見人へ引き継ぎ、専門職が辞任するケースの両方があり、実際の対応は事案や家庭裁判所の判断によって異なります。「専門職に代わったきり、ずっとそのまま」とは限らない、という点は知っておくと安心材料になります。

こんな場合は、打診されないことも多いのが実情です

ご本人の金融資産が生活費の範囲にとどまり、当面使う予定のないまとまった資金がない場合や、すでに弁護士・司法書士等の専門職後見人が選任されていて、通帳・領収書の管理や家庭裁判所への定期報告といった財産管理の体制が整っている場合は、支援信託・支援預金の利用を打診されないことも多くあります。今の時点で家庭裁判所や後見人から利用を勧められていないのであれば、この記事の内容を先回りして心配しすぎる必要はありません。判断に迷う場合は、申立て予定(または申立て済み)の家庭裁判所、または担当の専門職後見人にご確認ください。

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次の5つのうち、当てはまるもの(YES)はいくつありますか。

  • すでに家庭裁判所や後見人(専門職)から、支援信託または支援預金の利用を打診されている
  • ご本人にまとまった預貯金・金融資産があり、日常生活費以外に大きな余裕資金がある
  • 現在、成年後見人にご家族(親族)が単独で就任している、または就任予定である
  • 信託の利用にあたり、専門職後見人への追加の報酬が発生することに不安がある
  • 近いうちにまとまったお金を動かす予定があり、資金の流動性を保っておきたい

YESの数で見る、今の状況

4〜5個YES:支援信託・支援預金の利用や、専門職後見人との連携について、具体的に検討すべき段階です。すでに打診を受けている場合は、家庭裁判所や担当の専門職に、生活費として残す金額の目安を早めに相談することをおすすめします。

2〜3個YES:今後、利用を打診される可能性がある段階です。まずは制度の仕組みを理解したうえで、ご家族の中で財産の状況を整理しておくと、実際に話が来たときに慌てずに済みます。

0〜1個YES:現時点で、支援信託・支援預金が直接関わる状況ではなさそうです。後見制度そのものの全体像や、判断能力が低下する前にできる備えについては、生前対策診断でご自身に合う備え方を確認してみてください。

よくある質問

Q. 支援信託の利用を拒否することはできますか?
本人や親族後見人の意向だけで一方的に拒否できるものではなく、本人の財産保護の観点から、最終的には家庭裁判所が必要性を判断します。ただし、支援信託・支援預金を使わない代わりに、専門職の後見監督人を選任するなど、別の方法が取られることもあります。疑問がある場合は、申立て先の家庭裁判所の窓口や、担当の専門職後見人にご相談ください。

Q. 支援信託を使うと、専門職の後見人が別途必要になりますか?
支援信託・支援預金の利用を検討する場合、契約の締結までの間、家庭裁判所が弁護士・司法書士等の専門職後見人を選任し、手続きを行わせる運用が広く行われています。契約締結後、その専門職が引き続き後見人を務めるか、財産管理の体制が整ったとして親族後見人へ引き継いで専門職が辞任するかは、事案や家庭裁判所の判断によって異なります。

Q. 費用はどのくらいかかりますか?
信託契約の締結にあたり専門職後見人が選任される場合、その専門職への報酬(一時金)が別途発生することが一般的です。金額は本人の財産状況等をふまえて家庭裁判所が審判で決定するため一律ではありません。後見人への報酬全般の考え方は成年後見人の報酬はいくら?報酬付与の審判の仕組みと相場で解説していますので、あわせてご確認ください。また、信託銀行等・取扱金融機関の管理報酬の有無・金額は金融機関により異なります。正確な見込み額は、申立て先の家庭裁判所や担当の専門職にご確認ください。

Q. 支援信託を使うと、不動産や株式もまとめて信託できますか?
いいえ、支援信託・支援預金の対象は金銭に限られます。不動産や動産は、支援信託を利用する目的で売却することは想定されていません。株式など金銭以外の資産の扱いは、事案ごとに個別に検討されます。

Q. 信託したお金は、二度と自由に使えなくなりますか?
そうではありません。ご本人の医療費・介護費など、まとまった支出が必要になった場合は、家庭裁判所に報告書を提出し、指示書の発行を受けることで、信託財産から払戻しを受けることができます。ただし、この手続きには一定の時間がかかるため、日常的にすぐ引き出せる普通預金とは性質が異なる点に注意が必要です。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的判断や、特定の家庭裁判所における運用を保証するものではありません。費用・金額・制度の運用は2026年7月時点の公開情報をもとにした目安であり、事案や申立て先の家庭裁判所により異なります。正式な申立て手続きの代理は弁護士・司法書士、税務判断は税理士にご相談ください。保険についてのご相談は提携する乗合代理店をご紹介する場合があり、その際に当社が紹介料を受け取ることがあります。

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この記事を書いた人

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