「年金は毎年少しずつ上がっているのに、暮らしは楽にならない」。スーパーの値札を見て、そう感じる方は多いと思います。2026年度の年金額は前年度より1.9〜2.0%増えました。一方で、改定のもとになった物価の上がり方は3.2%でした。
この記事では、厚生労働省・日本年金機構・日本銀行の公表資料をもとに、年金が物価ほど増えない仕組み(マクロ経済スライド)と、預金の「実質的な価値」の考え方を整理します。そのうえで、物価が上がる時期のお金の置き場所を、使う時期で分けて考える方法をまとめます。預金・国債・NISAなど置き場所ごとの比べ方は、老後のお金の置き場所で扱っています。
先に結論:年金は物価の上がり方より小さく増える
この記事の結論
- 年金は毎年度、物価と賃金で見直されます:2026年度は物価の上がり方3.2%に対し、年金は国民年金1.9%・厚生年金2.0%の引上げでした。
- 差が出るのは仕組みによるものです:賃金の伸びが物価より小さいときは賃金に合わせ、さらにマクロ経済スライドで少し差し引かれます。年金がなくなる話ではなく、増え方が少し小さいという話です。
- お金は使う時期で分けて考えます:近いうちに使うお金は、元本が減らない預金に。物価の影響を考えるのは、当面使わないお金の置き場所です。
年金額は毎年度どう決まるか
公的年金の額は、毎年度、物価と賃金の動きに合わせて改定されます。2026年度の改定では、物価変動率が3.2%、名目手取り賃金変動率(現役世代の手取り賃金の伸び)が2.1%でした。
物価の伸びが賃金の伸びを上回るときは、賃金の伸びに合わせて改定します。厚生労働省は「支え手である現役世代の負担能力に応じた給付とする観点」から、と説明しています。2026年度は賃金の2.1%が基準になりました。
そこからさらに、マクロ経済スライドで調整されます。公的年金に加入している人の数の変化と、平均余命の伸びをもとに調整率を決め、物価や賃金の伸びがプラスのときに改定率から差し引く仕組みです。2004年(平成16年)の制度改正で導入されました。2026年度の調整率は、国民年金(基礎年金)が▲0.2%、厚生年金(報酬比例部分)が▲0.1%でした。
2年続けて、年金の増え方は物価の上がり方を下回りました。2026年度で見ると、物価との差は1.2〜1.3ポイントです。年金の金額は増えていても、買えるものの量で見ると少しずつ目減りしている、ということです。
2026年度の国民年金の満額は月70,608円で、前年度より1,300円増えました。厚生年金を含む標準的な夫婦の年金額は月237,279円で、前年度より4,495円増えています。改定の内容と振込日は2026年度の年金の変更点まとめで確認できます。
年金の名目額を下げない決まりと「キャリーオーバー」
マクロ経済スライドには、調整によって前年度より年金の名目の金額を下げない、という措置があります。物価や賃金の伸びが小さい年は、この措置のために調整しきれない分が残ります。
残った分は、翌年度以降に繰り越して差し引く仕組み(キャリーオーバー制度)があります。2018年度から導入されました。物価や賃金が大きく伸びた年に、繰り越し分もまとめて差し引かれることがあります。
年金は、物価や賃金に合わせて見直される、暮らしの土台になる収入です。物価との差は、年金をあてにできないという意味ではありません。増え方が物価より少し小さい分を、家計のほうでどう受け止めるかを考えておく、ということです。
預金の「実質的な価値」は物価で決まる
預金は、預けた金額(名目の金額)が減らない置き場所です。ただ、物価が上がると、同じ金額で買えるものが少なくなります。これを「実質的な価値が下がる」と言います。
日本銀行は、2013年1月に、消費者物価の前年比上昇率2%を「物価安定の目標」と定めています。仮に物価が毎年同じ率で上がり続けたとき、今の100万円で買えるものがどうなるかを計算すると、次のようになります。
利息がつけば、その分だけ目減りは小さくなります。実質的に増えたか減ったかは、預金の金利と物価の上がり方の差で決まります。定期預金の金利は定期預金の金利2026で比べています。
とはいえ、目減りを避けようとして、近いうちに使うお金まで値動きのある商品に移すと、別の心配が生まれます。値下がりした時期に取り崩すことになれば、損が確定するからです。
物価が上がる時期も「使う時期」でお金を分ける
物価のことを考えるときも、出発点は「いつ使うお金か」です。一般的な考え方として、次の3つに分けます。
- 5年以内に使うお金:年金で足りない生活費、家の修繕、入院や介護の備えです。物価が上がると必要な額も増えるため、見積もりを少し多めにして、すぐ引き出せて元本が減らない預金に置きます。
- 5〜10年後に使うお金:値動きの小さい置き場所が中心です。定期預金や個人向け国債のように満期や受け取りの時期があるものを、使う時期に合わせて並べる考え方があります。
- 10年以上使わないお金:物価の上昇に負けにくい置き場所を考える余地があります。株や投資信託は値上がりも値下がりもします。下がっても暮らしが変わらない額に限ります。60代から考えるときの手順は60代からのNISAで整理しています。
どの置き場所にどれだけ置くかは、家計や健康状態、家族の事情で変わります。ここでの分け方は一般的な考え方で、個別の配分を示すものではありません。最終的な判断はご自身でなさってください。
年金生活で物価に備える家計の見直し
- 年金の手取りを確かめる。年金振込通知書で、天引き後の金額を見ます。額面から税金などが差し引かれているためです。
- 支出を2つに分ける。食費や光熱費など毎月のものと、固定資産税や車検など年に数回のものです。
- 年金で足りない月の額を出す。物価が上がることも考え、少し多めに見積もります。
- 足りない分を何年分、預金に置くか決める。ここが「5年以内に使うお金」になります。
- 年に1回見直す。年金額が改定されたあとに、手取りと支出を並べ直します。
収入が少ない方には、年金に上乗せして支給される給付もあります。条件は年金生活者支援給付金2026で確かめられます。
ご自分の預金や自宅を、元気なうちにどう残すか整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
今日できる一歩
- 年金振込通知書と、先月の家計の支出を並べて、「年金で足りない月の額」を1つの数字にしてみましょう。物価を考えて、その1割増しの額もメモしておきます。
よくある質問
Q. 物価が上がっているのに、なぜ年金は同じだけ上がらないのですか?
A. 物価の伸びが賃金の伸びを上回るときは賃金に合わせて改定し、さらにマクロ経済スライドで調整率を差し引くためです。2026年度は物価3.2%に対し、年金の改定率は国民年金1.9%・厚生年金2.0%でした。
Q. マクロ経済スライドで年金が前年より減ることはありますか?
A. 調整によって前年度より名目の年金額を下げない措置がとられています。調整しきれなかった分は、翌年度以降に繰り越されます。
Q. 物価が上がるなら、預金はやめたほうがよいですか?
A. そうとは限りません。近いうちに使うお金は、すぐ引き出せて元本が減らない預金が向いています。物価の影響を考えるのは、当面使わないお金の置き場所です。
Q. 物価に強い商品を教えてください。
A. 当社は特定の商品や金融機関をご案内していません。値動きのある商品は、値上がりも値下がりもします。仕組みや手数料は、金融機関の説明書面で確かめてください。
Q. 物価の上がり方はどこで確かめられますか?
A. 年金額の改定では、前年の消費者物価指数の変動率が使われます。厚生労働省が年度ごとに公表する年金額改定のお知らせに、その年度の物価変動率が載っています。
参考にした公的情報
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/001672868.pdf - 厚生労働省「令和7年度の年金額改定についてお知らせします」
https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/001436802.pdf - 日本年金機構「令和8年4月分からの年金額は前年度からどのように改定されたのですか。」
https://www.nenkin.go.jp/section/faq/jukyu/seido/kyotsu/gakukaitei/201906031.html - 日本年金機構「マクロ経済スライドのキャリーオーバー制度とは何ですか。」
https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/seido/kyotsu/macro/20190603.html - 日本銀行「2%の『物価安定の目標』」
https://www.boj.or.jp/mopo/outline/target.htm
※本記事は2026年10月時点の公開情報をもとにした一般的な整理です。特定の金融商品や金融機関を勧めるものではなく、将来の物価や金利の見通しを示すものでもありません。年金額は加入の記録によって人ごとに異なります。ご自身の年金額は、日本年金機構の「ねんきんネット」や年金事務所でご確認ください。
