「貯めてきたお金を、どのくらいのペースで使ってよいのか分からない」「通帳の残高が減っていくのが不安で、旅行や家の修繕を我慢している」。年金生活に入った方やそのご家族から、こうした声をよく聞きます。
この記事では、老後資金の取り崩し方を一般論として整理します。毎月決まった額を引き出す「定額」と、残高の一定割合を引き出す「定率」の違い、使う時期でお金の置き場所を分ける考え方、取り崩す順番です。預金・国債・NISAなど置き場所ごとの特徴は老後のお金の置き場所、NISAにいくら入れるかは60代からNISAは遅い?で扱っています。この記事は、置いたお金を「どう使っていくか」に絞ります。
先に結論:不足額を決め、使う時期の近いお金から取り崩す
この記事の結論
- 取り崩すのは「年金で足りない分」:まず毎月の不足額と、年に数回の大きな出費を書き出します。取り崩し額はそこから決まります。
- 定額は家計を組みやすく、定率は残高が尽きにくい:定額は毎月の受け取りが一定です。定率は残高が減ると受け取りも減るため、ゼロになりにくい代わりに額が毎年変わります。組み合わせる考え方もあります。
- 使う時期でお金を段に分ける:近く使う分は値動きのない預金に置き、取り崩しはそこから。減ってきたら奥の段から補充します。値下がりした時期に慌てて売らずにすむ形です。
取り崩しの前に:何をいくら取り崩すのかを決める
金融庁の金融審議会の報告書は、老後の生活では年金などの収入で足りない部分を、持っている金融資産から取り崩していくことになると整理しています。そのうえで、取り崩しの具体的なシミュレーションをしておくことが大切だとしています。
シミュレーションといっても、最初は紙1枚で足ります。次の3つを書き出します。
- 毎月の不足額:1か月の生活費から、年金などの収入を引いた額です。
- 年に数回の大きな出費:固定資産税、車の車検や買い替え、家の修繕、冠婚葬祭、旅行などです。年額に直して12で割ると、毎月の不足額に足せます。
- 今ある資産:預金、国債、投資信託などを金融機関ごとに書き出します。
公的な統計で見た毎月の不足額の目安や、家計の棚卸しの手順は老後資金の見直し方で整理しています。年金の受け取りを遅らせる(繰下げる)間は年金が入らないため、その期間は取り崩しが多くなります。繰下げの考え方は年金の繰下げは得かをご覧ください。
定額と定率:2つの取り崩し方の違い
取り崩し方には、大きく分けて「定額」と「定率」の2つの考え方があります。どちらが正しいというものではなく、それぞれに得意・不得意があります。
違いを、考え方を示すための仮の数字で比べます。2,000万円を、増えも減りもしない(利息や値動き、物価の変化を考えない)として取り崩します。
- 定額:毎月10万円(年120万円)。毎年同じ額を受け取れますが、約16年8か月で残高はゼロになります。
- 定率:毎年、残高の6%。1年目は120万円、2年目は約113万円、3年目は約106万円と、受け取る額が少しずつ減ります。10年たっても残高は約1,077万円ありますが、11年目に受け取れるのは約65万円です。
定額は「いつまで持つか」、定率は「受け取りがどこまで減るか」が確かめどころです。そこで、毎月の生活費の不足分は預金から定額で埋め、旅行や趣味など調整のきく出費は残りのお金から定率で考える、という組み合わせ方もあります。
使う時期で置き場所を段に分ける
取り崩しを続けやすくするには、お金を「使う時期」で段に分けておくと整理しやすくなります。年数の区切り方は、60代からNISAは遅い?の「使う時期から逆算する」表と同じ考え方です。
- 手前の段(数年以内に使う分):毎月の不足額と、近い時期の大きな出費です。普通預金や定期預金など、すぐ引き出せて元本が減らない場所に置きます。毎月の取り崩しは、ここから引き出します。
- 中ほどの段(5〜10年後に使う分):値動きの小さい場所が中心です。満期や換金の条件がはっきりしている定期預金や個人向け国債などが考えられます。
- 奥の段(10年以上先に使う分):値動きのある資産を考える余地がある段です。値下がりしても暮らしが変わらない額にとどめます。
動かし方は、「使うのは手前の段から」「手前の段が減ってきたら、中ほど・奥の段から補充する」です。補充は、年に1回など時期を決めて行うと、迷いが少なくなります。手前の段に数年分を置いておけば、値動きのある資産が値下がりしている時期に、生活費のために慌てて売らずにすみます。
取り崩すときの順番と、気をつけたいこと
- 預金:普通預金から引き出し、定期預金は満期に合わせて手前の段へ移すと、途中解約で利息が下がるのを避けやすくなります。
- 個人向け国債:発行から1年たてば換金できますが、直前2回分の利子相当額(税引後)が差し引かれます。満期の時期を補充の予定に合わせておくと、差し引きを避けられます。
- 投資信託:換金を申し込んでから入金まで、一般に4〜5営業日ほどかかります。換金のときに信託財産留保額が差し引かれる商品もあります。利益が出ていれば、課税口座では税金がかかります。どの口座から売るかで税金が変わることもあるため、販売会社や税務署に確かめます。
- 毎月分配型の投資信託:分配金の一部が元本払戻金なら、自分のお金を少しずつ受け取っている状態です。取り崩しの計画に入れるときは、毎月分配型の投資信託とはで中身の見方を確かめてください。
もう一つ気をつけたいのは、取り崩しを我慢しすぎることです。手前の段のお金は、使うために置いているお金です。必要な出費や、元気なうちにしたいことまで削ってしまうと、何のために準備したのか分からなくなります。ここでの整理は一般的な考え方です。最終的な判断はご自身でなさってください。
年に1回の見直しと、家族との共有
取り崩しの額は、一度決めたら終わりではありません。年に1回、残高、年金の額、これからの出費の予定を書き出し、取り崩す額と段の分け方を見直します。入院や介護が始まると出費が大きく変わるため、そのときも見直しの時期です。
同じ報告書は、高齢期を「計画的な取崩しを実行するとともに、認知・判断能力の低下や喪失に備えて行動する時期」としています。どの段にどのお金を置いているか、毎月どこから引き出しているかを家族と共有しておくと、本人が手続きしにくくなったときに家族が状況をつかめます。証券口座で家族が動ける仕組みは親が認知症になったら証券口座・NISAは?で整理しています。
使い切らずに残ったお金は、相続のときに家族へ引き継がれます。ご自分の預金や自宅も含めて、元気なうちにどう残すか整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
今日できる一歩
- 紙に「毎月の不足額」「年に数回の大きな出費」を書き、その合計の数年分が、今の普通預金・定期預金で足りているかを確かめてみましょう。足りていれば、それが手前の段です。
よくある質問
Q. 定額と定率、どちらで取り崩すのがよいですか?
A. 一概には言えません。毎月の生活費の不足分は定額のほうが家計を組みやすく、値動きのある資産を長く使うなら定率のほうが残高が尽きにくい、という違いがあります。両方を組み合わせる考え方もあります。
Q. 毎年何%までなら取り崩してよいですか?
A. 全員に当てはまる答えはありません。年金の額、資産の額と中身、健康状態、残したい額によって変わります。この記事の仮の数字のように、いくつかの割合で「何年もつか」「受け取りがどこまで減るか」を試して、家族と話し合う材料にします。
Q. 残高が減るのが不安で、お金を使えません。
A. 使う時期で段に分けると、手前の段のお金は「使ってよいお金」だとはっきりします。奥の段が残っていることが分かれば、手前の段を使うことへの不安も小さくなりやすくなります。
Q. 取り崩しの途中で投資信託が値下がりしたら、どうしますか?
A. 手前の段に数年分の預金があれば、生活費のために値下がりした資産を売る必要はありません。そのための段分けです。売るかどうかや売る時期は個別の事情によるため、この記事では扱いません。
参考にした公的情報
- 金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(2019年6月3日)
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf - 財務省「個人向け国債の中途換金についてのよくある質問」
https://www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/main/qa/answer_qd.html - 資産運用業協会「投資信託Q&A100選 分配金・換金/償還の知識」
https://www.imaj.or.jp/special/toushin-qa100/dividend_redemption - 資産運用業協会「投資信託Q&A100選 税金・手数料の知識」
https://www.imaj.or.jp/special/toushin-qa100/tax_fee
※本記事は2026年10月時点の公開情報をもとにした一般的な整理です。特定の金融商品や金融機関を勧めるものではなく、取り崩しの割合や売買の時期を示すものでもありません。例の数字は考え方を示すための仮のもので、利息・値動き・物価・税金は考えていません。商品の条件は金融機関の最新の説明をご確認ください。
