親が持っていた田や畑を相続することになった。自分は農業をしていないし、これからやるつもりもない。それでも何か届け出は必要なのか、放っておくとどうなるのか。相続の手続きの中でも、農地は情報が見つけにくい部分です。
農地を相続したときにやることは2つです。法務局への相続登記と、市町村の農業委員会への届出。届出は農地法第3条の3にもとづくもので、許可を取る必要はなく、届け出るだけ。手数料もかかりません。この記事では、それぞれの期限と出し方、届け出なかったときの罰則、そして持ち続けるか手放すかを考えるときの選択肢まで整理します。
先に結論:期限の違う2本立て
農地を相続したら、この2つを出す
🌾
市町村の農業委員会へ
農地法第3条の3の届出
おおむね10か月以内
許可は不要。届け出るだけ。
手数料は無料
🏛️
法務局へ
相続登記(義務)
3年以内
登録免許税は固定資産税
評価額の0.4%
(届出の期限は多くの市町村が「権利を取得したことを知った時点からおおむね10か月以内」と案内。相続登記は2024年4月1日から義務化され、所有権の取得を知った日から3年以内。いずれも怠ると10万円以下の過料の対象。出典:農地法第3条の3・第69条、法務省。2026年9月時点・自治体により案内が異なります)
2つは提出先も期限も別で、片方を出せばもう片方が済むというものではありません。届出は農業委員会が「この農地は今、誰のものか」を把握するための手続きで、農業をするかどうかは問われません。相続登記は不動産の名義を変える手続きです。順番に見ていきます。
農業委員会への届出|どこに、何を出すのか
農地法第3条の3は、相続などで農地の権利を取得した人に、その農地がある市町村の農業委員会へ届け出ることを求めています。売買や贈与で農地を取得する場合は農地法第3条の許可が必要ですが、相続は本人の意思で取得するものではないため、許可ではなく届出で足りるという整理です。
提出物は市町村によって少しずつ違います。共通するのは届出書で、多くの自治体が様式をホームページで配布しています。
- 農地法第3条の3第1項の規定による届出書(自治体によっては2部)
- 筆別明細書(相続した農地の筆数が多い場合に求められることがある)
- 登記事項証明書の写しなど、権利を取得したことが分かる書類(添付を求める自治体と、不要とする自治体がある)
- 代理人が提出する場合は委任状
届出書には、亡くなった方の氏名、届け出る人の住所氏名、農地の所在・地番・地目・面積、権利を取得した日(相続の場合は死亡の日)などを書きます。特別な資格は要らず、相続人が自分で書いて出せます。手数料は無料です(東京都小平市など複数の自治体が公式に無料と案内しています)。
⚠️ 届出は「権利が移った」ことの報告にすぎない
農業委員会の案内では、この届出によって権利取得の効力が生じるものではないと明記されています。届け出たから名義が変わる、というものではありません。名義を変えるのは法務局への相続登記です。届出だけ済ませて登記を忘れる、という取り違えが起きやすい点です。
届け出ないと10万円以下の過料
届出をしなかった場合、または虚偽の届出をした場合は、農地法第69条により10万円以下の過料に処すると定められています。過料は前科がつく刑罰ではありませんが、行政上のペナルティです。実際に科されるかどうかは事案によりますが、「知らなかった」で放置してよい手続きではありません。
期限については、多くの市町村が「農地について権利を取得したことを知った時点からおおむね10か月以内」と案内しています。一方で「遅滞なく」とだけ書いている自治体もあり、表現には幅があります。相続税の申告期限も10か月なので、その時期に合わせて片づけてしまうのが分かりやすいでしょう。すでに10か月を過ぎている場合でも、届出を受け付けてもらえないわけではありません。気づいた時点で農業委員会に連絡してください。
相続登記と届出、どちらを先にするか
相続登記は2024年4月1日から義務化されました。自己のために相続の開始があったことを知り、かつその不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です。施行前に開始した相続は、2027年3月31日までが期限とされています(法務省)。
順番としては、遺産分割で誰が農地を取得するか決め、相続登記を済ませてから届出を出す流れが自然です。登記事項証明書の添付を求める自治体では、その方が一度で済みます。ただし届出の期限のほうが早く来るため、遺産分割の話し合いが長引きそうなときは、先に届出だけ出して構いません。その場合は法定相続分で共有している状態として届け出ることになるので、書き方を農業委員会に確認してください。
遺産分割がまとまらず3年以内に相続登記ができそうにないときは、「相続人申告登記」という簡易な申出をしておく方法があります。相続人が単独で申し出ることができ、登録免許税もかかりません。これでいったん登記義務を果たしたものとして扱われます。ただし名義変更そのものではないので、分割が決まった後に改めて相続登記が必要です。自分で申請する場合の手順や費用は名古屋の相続登記を法務局へ自分で申請するといくら?にまとめています。
⚠️ 「畑だと思っていたら登記されていなかった」もある
親の代より前から名義が変わっていない土地が混ざっていることがあります。祖父名義のままの田畑が出てくると、その世代までさかのぼって相続人を確定させる必要が生じ、手間が一段跳ね上がります。まずは市町村役場で名寄帳を取り、所有している土地の一覧を確認してください。固定資産税が非課税の土地も載るため、漏れを防げます。
持ち続けるか、手放すか
農業をしない相続人にとって、農地は「持っていても使えない、売ろうにも相手が限られる」財産になりがちです。選択肢は大きく3つあります。
1. 貸す(農地中間管理機構=農地バンク)
各都道府県には、農地の貸し借りを仲介する農地中間管理機構(農地バンク)が置かれています。農地を機構に貸し出し、機構が担い手の農家へ転貸する仕組みです。自分で借り手を探さなくてよく、賃料は機構を通じて受け取ります。借り手が見つかるかどうかは農地の条件によるため、まずは県の機構か市町村の農政担当窓口に相談してみてください。
2. 農地のまま売る・貸す(農地法第3条の許可)
農地を農地として第三者に売ったり貸したりする場合は、農地法第3条の許可が必要です。買い手にも一定の要件が求められるため、誰にでも売れるわけではありません。相続のときの届出とはまったく別の手続きです。
3. 農地以外にする(農地法第4条・第5条の許可)
宅地や駐車場にするなど農地以外の用途に変えることを「転用」といいます。自分で転用するなら第4条、転用する目的で他人へ売る・貸すなら第5条の許可が必要です。ただし市街化区域内の農地は、許可ではなく農業委員会への届出で足りるとされています。同じ「届出」でも相続の届出とは別物なので、混同しないでください。どの区域に当たるかは市町村の都市計画の窓口で確認できます。
固定資産税と相続税での扱い
農地の固定資産税は、市街化調整区域などの一般農地であれば宅地に比べて低く抑えられているのが通常です。一方、市街化区域内の農地は宅地並みに課税される場合があり、市町村や区域によって扱いが変わります。実際の税額は毎年届く課税明細書で確認できます。
相続税の評価では、農地は所在する区域によって評価の方法が分かれます。また、相続人が農業を続けることを前提とした納税猶予の制度もありますが、適用を受けるには継続して農業を営むことなど厳しい要件があり、途中でやめると猶予されていた税を納めることになります。農業をしない相続人が安易に選べる制度ではありません。評価も猶予も判断が分かれる部分なので、申告が必要になりそうなご家庭では税理士に確認してください。
愛知県内の農業委員会の探し方
届出先は、農地がある市町村の農業委員会です。相続人が住んでいる場所ではなく、農地の所在地で決まります。市町村のホームページで「農業委員会」または「農地法3条の3」と検索すると、様式と窓口が見つかります。県内の例を2つ挙げます。
このように、同じ愛知県内でも「添付書類が要る市」と「要らない市」があります。先に電話で必要書類を聞いておくと、一度で終わります。農地の地番が分からない場合は、名寄帳や固定資産税の課税明細書、登記事項証明書で確認できます。全国どこに不動産があるか分からないときは所有不動産記録証明制度とは、実家の名義の調べ方は実家の名義を確認する方法が参考になります。
自分でやるか、頼むかの分かれ目
農業委員会への届出そのものは、相続人が自分で出せる手続きです。書式は決まっており、書く内容も限られています。無料でもあるので、ここを誰かに頼む必要はほとんどありません。
手間がかかるのは、その前段です。農地が何筆あるのか、亡くなった方の名義になっているのか、相続人が誰なのか。ここが片づけば届出は数十分の作業です。逆に、次のような場合は自分だけで進めるのが難しくなります。
- 祖父母の代の名義のままの農地があり、相続人が何人いるか分からない
- 農地が複数の市町村にまたがっていて、届出先が2か所以上になる
- 誰が引き継ぐかで話がまとまらず、遺産分割協議が進まない
- 農地のほかに自宅や預貯金もあり、相続税の申告が必要になりそう
相続手続き全体を自分でできるかどうかの判定は相続手続き、自分でできる人・できない人に判定表としてまとめています。まずはそこで全体の量を測ってから、届出のような自分でできる部分を先に片づけていくと進めやすくなります。
⚠️ 「相続放棄すれば農地から解放される」とは限らない
相続放棄をすれば農地を相続しませんが、預貯金や自宅も含めてすべてを放棄することになります。放棄には相続の開始を知った時から3か月という期限があり、農地だけを外すことはできません。また、放棄しても次順位の相続人へ話が移ります。農地が負担だからという理由だけで決める前に、財産全体を並べて確認してください。
まとめ
農地を相続したら、法務局への相続登記(3年以内)と、農地がある市町村の農業委員会への届出(おおむね10か月以内)の2本立てです。届出は農地法第3条の3にもとづくもので、許可は要らず、手数料も無料で、相続人が自分で出せます。届け出ないと10万円以下の過料の対象になります。持ち続けるなら農地バンクへの貸し出し、手放すなら第3条や第5条の許可という別の手続きが必要です。まずは名寄帳で農地の一覧を確認し、届出先の市町村に必要書類を電話で聞くところから始めてください。相続税の評価や納税猶予の判断は税理士に、登記で迷う点は司法書士に確認してください。
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※本記事は2026年9月時点の農地法・法務省および各市町村の公開情報にもとづく一般的な整理です。届出の期限の案内、必要書類、受付窓口は市町村により異なり、変更されることもあります。実際の届出は農地が所在する市町村の農業委員会に、登記の判断は司法書士に、相続税の評価や納税猶予など税務上の判断は税理士にご確認ください。