代償分割の遺産分割協議書の書き方|贈与税にならない条項例とWordひな形

実家は長男が継ぐ。そのかわり、弟や妹には現金を渡す。話し合いでそこまで決まったものの、いざ協議書にしようとすると「その現金のことを、どう書けばいいのか」で止まってしまう。代償分割はここでつまずく人がとても多いところです。

書き方を1か所まちがえると、せっかく渡した現金が「贈与」と扱われ、受け取った側に贈与税がかかることがあります。逆に、決まった言い回しを入れておけば、相続の枠内の精算として扱われます。この記事では、その分かれ目になる条項を、一括払い・分割払い・払えなかったときまで含めて具体的に示します。Wordのひな形も置いてあります。

目次

先に結論:代償分割の協議書で外せない5つ

🏠
長男が実家を取得
現物
代償金
💴
次男に現金を渡す
精算
協議書にこの一文がないと贈与税の対象になりうる
「遺産を取得した代償として」
書き落とすと後で困る5項目
1
代償である
と明記
2
確定額
(〇〇円)
3
支払期限
(年月日)
4
支払方法
(振込先)
5
払えない
ときの定め
※2026年9月時点。課税の取り扱いは相続税法基本通達11の2-9、国税庁タックスアンサーNo.4173による。

1から4までは税務と登記のため、5は家族のためです。特に5を書いていないと、支払いが滞ったときに、また一から話し合うことになります。

「代償として」の一文で、税の扱いが変わる

代償分割では、現物を取得した人が他の相続人に金銭を渡します。この金銭は、遺産分割の精算として動くものなので、相続税の課税価格の中で調整されます。国税庁のタックスアンサーNo.4173では、次のように整理されています。

立場相続税の課税価格
代償金を払った人(長男)取得した現物の価額 − 交付した代償財産の価額
代償金を受け取った人(次男)取得した現物の価額 + 交付を受けた代償財産の価額
出典:国税庁タックスアンサーNo.4173「代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」(2026年9月時点)

問題は、協議書に「代償として払う」と書いていない場合です。書面上は、長男が全部相続して、そのあと自分の財産から次男に現金を渡しただけ、という形に見えます。そうなると相続とは無関係な金銭の移動、つまり贈与と評価されるおそれがあります。年110万円の基礎控除を超えれば、受け取った次男に贈与税がかかります。

防ぐ方法は単純で、条項に「前条記載の遺産を取得した代償として」という言葉を入れるだけです。金額の大小にかかわらず、必ず入れてください。

条項例:そのまま使える書き方

1)一括で払う場合

第2条(代償金の支払)
甲(相続人 山田一郎)は、前条記載の遺産を取得した代償として、乙(相続人 山田二郎)に対し、金1,500万円の支払義務を負担し、これを令和〇年〇月〇日限り、下記口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。
【振込先】〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号1234567 口座名義 ヤマダジロウ

金額は「相当額」「時価相当」といった書き方では通りません。確定した数字で書きます。振込手数料をどちらが負担するかも、あとで気まずくなりやすいので明記しておきます。

2)分割払いにする場合

第3条(分割払)
前条の代償金の支払は、次のとおり分割して行う。
(1)令和〇年〇月〇日限り 金500万円
(2)令和〇年〇月から令和〇年〇月まで、毎月末日限り 金10万円ずつ

手元に現金がなく、これから用意する場合はこの形になります。総額と回数が合っているか、必ず電卓で確かめてください。総額が合わないと、あとで解釈がもめます。

3)払えなかったときの定め

第4条(期限の利益の喪失・遅延損害金)
甲が代償金の支払を1回でも怠ったときは、甲は当然に期限の利益を失い、乙に対し残額を直ちに支払う。この場合、甲は残額に対し支払期日の翌日から支払済みまで年〇パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

この条項がないと、1回目の遅れが起きた時点で、残りをまとめて請求できるのか、毎月ぶんを個別に催促するのかが決まりません。兄弟間だからこそ、先に決めておいたほうが関係が壊れずに済みます。より強く担保したい場合は、協議書とは別に、公証役場で執行認諾文言付きの公正証書にしておく方法もあります。

4)現金ではなく不動産で払う場合

第5条(代償を不動産で交付する場合)
甲は、第2条の代償として、乙に対し、甲所有の下記不動産を譲渡し、令和〇年〇月〇日までに所有権移転登記手続をする。

これは要注意の形です。代償を金銭以外の財産で渡すと、渡した側が時価で譲渡したものとして扱われ、譲渡所得税がかかることがあります。「現金がないから自分の持っている土地で」と考える前に、必ず税理士に相談してください。

Wordのひな形(代償分割型)

📥 代償分割型 遺産分割協議書 ひな形
上の条項例をそのまま組み込んだWordファイルです。一括払いのときは第3条を、金銭で払うときは第5条を削除して使ってください。末尾に「代償分割で外してはいけない5点」のチェックリストを付けています。
代償金が発生しない一般的なケースは遺産分割協議書の書き方とひな形の一般型をお使いください。

代償金の額はどう決めるか

法律で決まった計算式はありません。相続人全員が納得すれば、いくらでも構いません。実務では、次のどれかを出発点にすることが多いです。

基準にする金額特徴向いている場面
不動産会社の査定額実際に売れる価格に近い。無料で複数取れる将来売る可能性がある家
相続税評価額(路線価等)時価より低めに出ることが多い相続税の申告も並行するとき
固定資産税評価額役所の通知書ですぐ分かる。時価とはずれる金額の目安をすぐ知りたいとき
不動産鑑定士の鑑定評価費用はかかるが、根拠として強い兄弟間で評価額がまとまらないとき

どの基準を使ったかを、協議書の本文に書く必要はありません。ただし、あとから「あの金額はどう出したのか」と蒸し返されないよう、査定書や評価証明書を全員が1部ずつ持っておくと安心です。

今日の一歩:金額を口に出す前に、「払える額」を数字で出す

①順番を逆にしないでください。協議書に金額を書いてしまうと、あとから下げるには相続人全員の合意が要ります。先に、手元の預貯金・相続で受け取る現金・借りられる見込み額を、実際の数字で紙に書き出してください。代償金のための借入は、住宅ローンとは別の枠になります。取扱いは金融機関によって異なるので、取引のある金融機関に「相続の代償金に使いたい」と先に聞いておくのが確実です。

②固定資産税評価額なら、今日わかります。固定資産税の納税通知書に付いている課税明細書の「価格(評価額)」欄です。まずここで、おおよその桁を家族で共有してください。そのうえで、売る予定がなくても不動産会社の査定は取れます。「相続で分けるために目安がほしい」と伝えれば無料で出してもらえます。3社ほど並べて、真ん中あたりを基準にすると、兄弟のあいだで話が通りやすくなります。

③「払えない」と分かったときの次の一手。金額を無理に下げてもらう交渉に入る前に、換価分割(売って分ける)に切り替えられないかを一度検討してください。継ぐと決まっているなら、本記事の分割払いの条項と、期限の利益喪失・遅延損害金の条項をセットで入れます。共有名義のまま先送りにするのは、次の相続で持分が細かくなるため避けてください。

期限の目安:相続税の申告がある方は10か月に注意してください。申告期限までに分割が決まっていないと、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例をその時点では使えません(申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えておけば、3年以内に分割したうえで手続きをすれば適用を受けられます)。相続登記は取得を知った日から3年です。

代償分割でつまずく3つの場面

  • そもそも払う現金がない:家を売って分ける(換価分割)に切り替えるか、住宅ローンとは別枠の資金調達を検討することになります。分割払いにする場合は、返せる金額から逆算して総額を決めます。
  • 不動産の評価額でまとまらない:住み続ける側は低く、出ていく側は高く見積もりがちです。複数社の査定を並べて、中間値で合意する形が現実的です。
  • 代償金を払ったあとに家を売った:譲渡所得税の計算で、払った代償金は取得費になりません。売却も視野にあるなら、代償分割ではなく換価分割のほうが手取りが増える場合があります。

3つ目は見落とされがちです。「継ぐ」と決めたつもりが数年後に売却、という展開は珍しくありません。方針が固まりきっていない段階なら、代償分割を急がないほうがよいこともあります。

代償分割・換価分割・現物分割の使い分け

実家が遺産の大半を占めるとき、分け方は大きく3つです。どれを選ぶかで、協議書の書き方も、かかる税金も変わります。

分け方中身向いている家族注意点
代償分割1人が家を取り、他の相続人に金銭を渡す誰かが住み続ける、事業で使っている払う側に現金が必要。条項の書き方で贈与税リスク
換価分割家を売り、売却代金を分ける誰も住まない、全員が現金で欲しい譲渡所得税と売却費用が引かれる。売れるまで確定しない
現物分割土地を分筆する、財産ごとに分ける土地が広い、財産の種類が多い分筆に測量費用と時間がかかる。価値が下がることも

共有名義にして先送りする、という選択肢もありますが、次の相続で持分が細分化し、売るにも貸すにも全員の同意が要る状態になります。今の段階で決めきれるなら、上の3つのどれかで確定させておくほうが後の負担は軽くなります。

協議書ができたら

相続人全員が実印を押し、印鑑登録証明書を全員分そろえたら、法務局で相続登記を申請します。代償金の支払いは、登記が終わってからでも、協議書の日付どおりでも構いませんが、期限を過ぎないように注意してください。銀行口座の解約と払戻しについては遺産分割協議書を銀行に提出するときを参照してください。

代償金の額と書き方で迷っている方へ
代償分割は、金額の根拠と条項の書き方の2つがそろって初めて安全に成立します。30分の無料相談では、いまの話し合いの内容をお聞きして「その金額で本当に払いきれるか」「贈与税の指摘を受けない書き方になっているか」を確認し、条項の形にして持ち帰っていただけます。愛知県内は対面、それ以外はオンラインです。
お電話 052-766-5650(相談中は折り返しになります)

あわせて読みたい

本記事の制度・通達は2026年9月時点の情報にもとづいています。代償分割の課税関係は、代償財産の種類や評価の方法によって結論が変わります。実際の税額の判断、特に代償を金銭以外で交付する場合や、相続税の申告が必要な場合は、税理士にご確認ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

「いまから相続」は、株式会社アシストプラスが運営する、相続の手続き・生前対策・終活に関する情報サイトです。愛知県内の相続相談先の選び方や費用相場、金融機関ごとの手続き、生前対策や終活の進め方など、地域の実情に即した実践的な情報をお届けしています。 なお、運営会社である株式会社アシストプラスには、「あいち相続あんしんセンター」代表を務める司法書士 今井裕司が一部出資しております。この関係性を踏まえ、記事内でのご紹介・ご案内は公平性を保つよう努めています。

目次