財産を全部妻(夫)に相続させたい|子どもがいない夫婦は遺言1枚で決まる

「子どもがいないのだから、私が死ねば財産は当然に妻のものになる」。そう思っている方は多いのですが、法律はそうなっていません。子どものいない夫婦では、配偶者と一緒にあなたの親、親がいなければ兄弟姉妹、兄弟姉妹が先に亡くなっていれば甥や姪が相続人になります。遺言書がなければ、残された配偶者はその人たち全員と話し合い、全員の実印をもらわなければ預金も自宅も動かせません。

逆に言えば、対策は驚くほど単純です。この記事では、「全財産を妻(夫)に相続させる」と書いた遺言書1枚がなぜ決定打になるのか、例外はどこか、公正証書遺言と法務局の保管制度のどちらを選ぶか、保険の受取人指定をどう併用するかを、愛知県内で相続の相談を受けている当社の視点で順に整理します。

目次

先に結論:兄弟姉妹・甥姪に遺留分はない。だから遺言で全部渡せる

子どものいない夫婦|夫が先に亡くなったとき、財産はどこへ行くか
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遺言書なし
兄弟姉妹・甥姪と遺産分割協議
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3/4
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兄弟姉妹・甥姪
1/4
全員分の戸籍を集め、全員から署名と実印・印鑑証明をもらうまで、預金も自宅の名義も動きません。
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遺言書あり
「全財産を妻に相続させる」
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全部
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兄弟姉妹・甥姪
0
兄弟姉妹・甥姪には遺留分がありません。取り分を請求される制度そのものが存在しないので、協議も不要です。
民法900条(法定相続分)、民法1042条(遺留分は「兄弟姉妹以外の相続人」に帰属)。あなたの親が存命の場合だけは例外で、親には遺留分があります(次章)。2026年9月時点。

遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分です。民法1042条は、これを「兄弟姉妹以外の相続人」に与えると定めています。つまり兄弟姉妹と、その代わりに相続人になる甥・姪には、遺留分そのものがありません。「全財産を妻に相続させる」という遺言書を1通残せば、彼らから金銭を請求される余地がなく、そのとおりに確定します。

まず確認:あなたの相続人は「兄弟姉妹まで」か「親まで」か

子どもがいない場合、配偶者と一緒に相続人になる人は次の順で決まります(民法889条)。上の順位の人が1人でもいれば、下の順位の人は相続人になりません。

あなたの家族の状況 相続人と法定相続分 遺言で全部を配偶者にしたとき
親(または祖父母)が存命 配偶者2/3・親1/3 親に遺留分あり
遺産の1/6を金銭で請求される可能性
親は他界、兄弟姉妹がいる 配偶者3/4・兄弟姉妹1/4 遺留分なし。全部が配偶者へ
兄弟姉妹も他界、甥・姪がいる 配偶者3/4・甥姪1/4(代襲相続) 遺留分なし。全部が配偶者へ
親・兄弟姉妹・甥姪がいない 配偶者がすべて 遺言がなくても配偶者へ(ただし手続きは必要)
民法889条・900条・1042条にもとづく整理。2026年9月時点。

注意したいのは親が存命のケースです。親(直系尊属)には遺留分があります。相続人が配偶者と親の場合、遺留分の総枠は遺産の1/2で、そのうち親の法定相続分1/3を掛けた遺産の1/6が親の遺留分です。遺産6,000万円なら1,000万円。それでも遺言書があれば、配偶者は残る5,000万円分を確保でき、しかも遺産分割協議をせずに手続きを進められます。遺言を書かない理由にはなりません。

もうひとつ、細かいようで実務では効いてくるのが甥姪の子は相続人にならないという点です。子や孫の代襲相続は何代でも下りますが、兄弟姉妹の代襲は甥・姪までの一代限りです(民法889条2項)。甥・姪が先に亡くなっていれば、その子は相続に関わりません。

遺言書がないと、残された配偶者は何をさせられるか

遺言書がなければ、遺産の分け方は相続人全員による遺産分割協議で決めます。子どものいない夫婦でこれが起きると、配偶者は次の作業を1人で背負います。

  • 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍をすべて集める。親が他界していることを示すため親の戸籍も、兄弟姉妹を確定するためその全員分の戸籍も必要になります。転籍が多い家系だと数か月かかることもあります。
  • 面識のない甥・姪に連絡して、協議書に署名と実印をもらう。印鑑証明書も出してもらいます。1人でも「よく分からないから判は押さない」となれば止まります。
  • 相手が認知症だったり行方が分からなかったりすれば、家庭裁判所の手続き(成年後見人や不在者財産管理人の選任)を挟むことになります。
  • その間、金融機関の口座は凍結されたままで、自宅の名義も変えられません。不動産の相続登記は2024年4月から義務化され、取得を知った日から3年以内という期限もあります。

ここで多いのが「兄弟とは仲がいいから大丈夫」という読み違いです。問題は仲の良し悪しではなく、相手が先に亡くなって甥姪に代替わりしたときに表面化します。伯父の配偶者から突然連絡が来た甥にとっては、まったく知らない人からの相続の話です。遺言書がない場合に具体的に何が起きるかは遺言書がないとどうなるか?子供がいない場合の法定相続とリスクで詳しく書いています。

「全財産を妻に相続させる」遺言に、最低限入れる4つ

財産をすべて配偶者に渡す遺言は、実は非常に短くて済みます。財産目録を1つずつ書かなくても「一切の財産」でまとめられるからです。ただし次の4点は入れておいてください。

📝 条項の骨格(例)
第1条 遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、妻○○○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
第2条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として妻○○○○を指定する。遺言執行者は、預貯金の解約・払戻し、不動産の名義変更その他本遺言の執行に必要な一切の権限を有する。
第3条 妻○○○○が遺言者より先に、または遺言者と同時に死亡したときは、前条までの財産を○○○○(続柄・生年月日)に遺贈する。
(付言)長年連れ添った妻に、この家で安心して暮らし続けてほしいという思いから、このように定めました。
第2条の遺言執行者は、金融機関での手続きを配偶者だけで進めるための指定です。第3条の予備的条項は、夫婦のどちらが先に亡くなるか分からない以上、必ず入れておきたい条項です。

4つ目は夫婦それぞれが書くことです。夫の遺言だけ用意して妻が先に亡くなれば、何の役にも立ちません。同じ紙に夫婦連名で書く「共同遺言」は民法975条で禁じられているので、必ず別々に1通ずつ作ります。

公正証書遺言と法務局保管、どちらを選ぶか

形式は大きく2つです。公証役場で作る公正証書遺言と、自分で手書きして法務局に預ける自筆証書遺言書保管制度。どちらも家庭裁判所の検認は不要です。違いは費用と、無効になるリスクの引き受け方にあります。

  公正証書遺言 自筆証書+法務局保管
実費 公証人手数料。財産3,000万円超5,000万円以下なら基本33,000円+遺言加算13,000円=46,000円が目安(別途、正本・謄本の用紙代) 保管申請 3,900円(1件)
書く人 公証人が作成。証人2名が必要 本人が全文手書き(財産目録のみパソコン可)。証人不要
形式不備で無効になる不安 ほぼない 形式面は窓口で確認されるが、内容の有効性までは審査されない
検認 不要 不要
向いている人 不動産がある/財産が多い/体調に不安がある/確実性を最優先したい 財産が預貯金中心でシンプル/費用を抑えたい/自分で書ける
公証人手数料は2025年10月1日施行の改正後の額(公証人手数料令)。目的の価額により変わります。保管手数料は法務省「遺言書保管制度」の公表額。いずれも2026年9月時点。

当社が相談を受けるなかでは、自宅などの不動産がある場合は公正証書をお勧めすることが多いです。差額は数万円ですが、名義変更の場面で「この遺言は本当に有効か」を金融機関や法務局に問われたときの通りやすさが違います。公証役場に行く前に押さえておく点は名古屋の公証役場で公正証書遺言を作るときに後悔しやすい7つの落とし穴に、両者の比較は公正証書遺言と自筆証書遺言はどっちがいい?費用・手間・確実性で比較にまとめています。

今日の一歩:どちらを選ぶにしても、まず予約の電話を1本入れる

公正証書遺言にするなら、公証役場へ電話して予約します。遺言の公正証書に管轄はなく、全国どこの役場でも構いません。当日その場で作れるものではなく、案文のやり取りに数週間かかります。電話では「子どもがいない夫婦で、全財産を配偶者に残す遺言を作りたい」「自宅などの不動産がある(ない)」「証人2人を自分で用意できるか」の3点を伝えると、次に何を準備すればよいかまで教えてもらえます。

そろえる書類は、遺言者の印鑑登録証明書と実印、夫婦の関係が分かる戸籍謄本、予備的条項で渡す相手の住民票、不動産があれば登記事項証明書と固定資産評価証明書、預貯金は通帳の写し、証人2人の氏名・住所・生年月日・職業です。ここでつまずくのが証人で、推定相続人と受遺者、その配偶者と直系血族、未成年者は証人になれません(民法974条)。この記事の前提では妻(夫)も、相続人になる兄弟姉妹・甥姪も頼めません。用意できなければ役場に手配を依頼できます(別途費用)。入院中などで出向けないときは出張での作成もできます(手数料5割増と日当・交通費)。

法務局の保管制度にするなら、遺言書保管所になっている法務局のうち、住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄するところへ予約し、本人が出向きます(代理も郵送もできません)。遺言書はA4・片面で、上5ミリ・下10ミリ・左20ミリ・右5ミリの余白を空け、各ページに通し番号を振り、ホチキスで留めず、封もしません。持ち物は遺言書、本籍の記載がある住民票の写し(3か月以内)、顔写真付きの本人確認書類、手数料3,900円です。

保管制度を使うなら、申請書の死亡時通知(指定者通知)の欄を空けずに配偶者を指定してください。指定しておけば、亡くなったあとに法務局から配偶者へ、遺言書が保管されている旨の通知が届きます。子どものいない夫婦では、遺言書があること自体が誰にも伝わらないまま手続きが進んでしまう心配があります。

期限の目安:遺言は判断能力があるうちしか作れません。逆に、いったん作ってからでも書き直せます(日付の新しいものが優先・民法1023条)。内容を完璧にしてから、と待つより、先に1通残すほうが確実です。

保険の受取人指定を併せて点検する

遺言と並べて確認したいのが生命保険です。死亡保険金は受取人固有の財産として扱われ、遺産分割協議を経ずに受取人へ支払われます。遺言の効力が及ぶ前に、配偶者の手元へ現金が届く。この速さは、口座凍結中の生活費や葬儀費用を賄ううえで実務的な意味があります。相続税の計算でも「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。

点検したいのは受取人欄です。独身時代に入ったまま受取人が親のまま、あるいは「法定相続人」となっていて配偶者以外にも分散する設定になっている契約が、実際によく見つかります。受取人の変更は保険会社に連絡すれば手数料なくできることがほとんどです。相続人が兄弟姉妹・甥姪になる方の受取人設計は相続人が兄弟姉妹・甥姪だけの人へ|生命保険の受取人指定で「渡したい人」に渡す実務の6論点で掘り下げています。

なお、法律上の婚姻をしていない内縁のパートナーは相続人ではないため、この記事の前提とは対策の組み立てがまったく変わります。その場合は内縁の妻・夫に相続権はない|長年連れ添ったパートナーに財産を渡す4つの方法をご覧ください。

書いたあとに見直すタイミング

遺言は一度書けば終わりではありません。次のことが起きたら、内容を見直します。書き直しは新しい遺言を作ればよく、日付の新しいものが優先します(民法1023条)。

  • 親が亡くなった……相続人が親から兄弟姉妹へ移り、遺留分の心配がなくなります。逆に、遺留分を見込んで組んだ内容なら見直せます。
  • 兄弟姉妹が亡くなり、甥姪に代わった……協議相手の人数が増えるので、遺言の重要性が上がります。
  • 自宅を買い替えた、金融機関を変えた……「一切の財産」と書いていれば影響は小さいものの、財産目録を付けている場合は要修正です。
  • 配偶者の健康状態が変わった……予備的条項の受け皿(誰に遺贈するか)を考え直す場面です。

よくある質問

兄弟に一言も伝えずに遺言を書いてもいいですか

問題ありません。遺言の作成に相続人の同意は不要で、内容を知らせる義務もありません。兄弟姉妹・甥姪には遺留分がないため、あとから請求される制度もありません。ただし、感情の面で角が立たないよう付言事項で理由を一言添えておくと、配偶者が説明しやすくなります。

「妻に相続させる」と「妻に遺贈する」で違いはありますか

相手が相続人である配偶者なら「相続させる」と書きます。不動産の名義変更を配偶者だけで申請できるなど、手続き上の扱いが素直です。「遺贈する」は相続人でない人(内縁のパートナー、甥姪、団体など)に渡すときの書き方です。

全部を配偶者に寄せると、相続税で損をしませんか

一次相続では配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分までは非課税)が大きく効きます。一方、子どものいない夫婦では、その配偶者が亡くなる二次相続で、今度は配偶者側の兄弟姉妹や甥姪へ財産が流れます。夫婦それぞれの遺言をセットで考えるのはこのためです。具体的な税額計算は税理士にご確認ください。

相続人が誰になるか、自分では調べられませんか

本籍地の市区町村で自分の出生からの戸籍を取れば、兄弟姉妹の有無まではたどれます。2024年3月から、最寄りの市区町村の窓口で本籍地以外の戸籍もまとめて請求できる広域交付が始まっており、以前より集めやすくなりました。異母・異父の兄弟姉妹が判明することもあるので、遺言を書く前に一度たどっておく価値があります。

「全部を配偶者に」を、確実な1通にしたい方へ
つまずくのはたいてい、親が存命かどうかの判断と、予備的条項と遺言執行者の書き方です。30分の無料相談では、ご家族の状況から相続人になる人を洗い出し、公正証書と法務局保管のどちらが向くか、条項に何を入れるかを整理してお持ち帰りいただけます。愛知県内は対面、それ以外はオンラインです。
お電話 052-766-5650(相談中は折り返しになります)

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本記事の制度・数値は2026年9月時点の情報です。公証人手数料は公証人手数料令、遺言書保管の手数料は法務省の公表額にもとづきます。法定相続分・遺留分の記載は民法889条・900条・1042条によります。個別の事情によって結論は変わりますので、実際の遺言作成にあたっては専門家にご相談ください。税額の計算は税理士の領域です。

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この記事を書いた人

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