この夏の帰省で、一度だけ家族で話してみませんか。今のうちにできる備えは生前対策診断で、持ち帰って書けるシートは「わが家の安心メモ」からどうぞ。
『義理の父を、10年近く自宅で介護してきました。夫は仕事で家を空けがちで、実際に身の回りの世話をしていたのはほとんど私です。義父が亡くなり、相続の話し合いが始まりましたが、私は相続人ではないので、何ももらえないのでしょうか。』
※上記は、当窓口によくお寄せいただくご相談内容を、典型的なパターンとして再構成したものです。特定の相談者様の実際のご相談内容ではありません。
長年介護を担ってきたのに、相続人ではないという理由だけで何も受け取れないとしたら、あまりに理不尽です。この不公平を是正するために、2019年の民法改正で新設されたのが「特別寄与料」という制度です。この記事では、特別寄与料とは何か、誰が対象になるのか、いくらもらえるのか、どう請求すればよいのかを、行政書士法人が中立的な立場から完全ガイドとして解説します。
30秒でわかる結論
- 特別寄与料(民法1050条)は、相続人でない親族(長男の配偶者など)が無償で介護等を行い、被相続人の財産の維持・増加に貢献した場合に、相続人へ金銭を請求できる制度です。
- 認められるには「無償性」「継続性」「専従性」など、通常期待される範囲を超えた貢献であることの立証が必要です。
- 金額は法律で一律に決まっておらず、介護報酬の基準額などを参考にしながら個別に算定されます。
- 相続の開始及び相続人を知った時から6か月、または相続開始の時から1年を過ぎると請求できなくなります。
- 相続後に請求するより、親が元気なうちに遺言や生命保険で形にしておくほうが、確実で対立も避けられます。
特別寄与料とは――相続人でない家族の貢献を報いる制度
従来の民法では、相続人でない人がどれだけ被相続人の介護に貢献しても、相続の場面でその貢献を直接考慮する仕組みがありませんでした。例えば長男の配偶者が献身的に義理の親を介護しても、長男の配偶者自身は相続人ではないため、遺産分割協議に参加することも、財産を請求することもできなかったのです。この不公平を是正するため、2019年の民法改正で特別寄与料(民法1050条)という制度が新設されました。相続人でない親族が、無償で被相続人の療養看護等を行い、財産の維持または増加について特別の寄与をした場合、相続人に対して金銭(特別寄与料)を請求できるようになりました。
誰が「特別寄与者」になれるのか
特別寄与料を請求できるのは、被相続人の「親族」であって、相続人ではない人です。親族の範囲は、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族とされており、長男・長女の配偶者(いわゆる嫁・婿)はもちろん、甥や姪、いとこなども対象になり得ます。ただし、相続放棄をした人や、相続欠格・廃除により相続権を失った人は対象外です。
認められるための3つの要件
特別寄与料が認められるためには、単に「介護をした」というだけでは不十分で、次のような要素が求められます。
- 無償性――対価を得ずに介護等を行っていたこと。報酬を受け取っていた場合は対象になりにくくなります。
- 継続性――一時的・単発的な手伝いではなく、一定期間にわたって継続的に行われていたこと。
- 専従性――片手間ではなく、相当な負担を継続して引き受けていたこと。
実務上のポイント
同居して食事の世話をした、たまに通院に付き添った、といった程度では「特別」とは評価されにくく、対象外とされることが少なくありません。金額の根拠とあわせて、通常期待される範囲を明確に超えた貢献であることを主張・立証する必要があり、実務上のハードルは決して低くありません。
「もらえる金額」はどう決まるのか
特別寄与料の金額は、法律で一律に決まっているわけではなく、介護の内容・期間・専従性の程度などを踏まえて個別に判断されます。実務上は、介護保険の訪問介護報酬の基準額などを参考にしつつ、実際に第三者に依頼していたら発生したであろう費用から、被相続人と同居していたことによる利益分などを差し引いて算定する考え方が一般的です。金額の見立てだけでも専門家に相談することで、現実的な着地点が見えてきます。
請求の流れ――協議から家庭裁判所の手続きまで
特別寄与料は、まず相続人との協議で請求するのが基本の流れです。金額や支払方法について合意できれば、それで解決します。しかし、合意が得られない場合は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます。この場合、家庭裁判所が、寄与の時期・方法・程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定めます。
実務上のポイント
家庭裁判所への請求には期限があります。相続の開始及び相続人を知った時から6か月、または相続開始の時から1年を経過すると、請求そのものができなくなります。この期限は、通常の相続放棄の期限(3か月)とも異なるため、混同しないよう注意してください。
寄与分との違い――対象者がまったく異なります
似た制度に「寄与分」(民法904条の2)がありますが、両者の最大の違いは対象者です。寄与分は相続人だけが対象であり、遺産分割協議の中で主張します。一方、特別寄与料は相続人でない親族だけが対象で、遺産分割協議の当事者にはなれないため、相続人に対して個別に金銭を請求するという形をとります。長男が介護をしていれば寄与分、長男の配偶者が介護をしていれば特別寄与料、というように、誰が介護を担ったかによって使う制度が変わる点を押さえておいてください。
相続後に主張するより、相続前に形にするほうが確実です
特別寄与料は、相続が起きた「後」に、相続人との交渉や家庭裁判所の手続きを経て、はじめて確定するものです。他の相続人との合意が得られなければ、時間と労力のかかる手続きになります。より確実なのは、親が元気なうちに、次の2つの備えをしておくことです。
遺言――介護への感謝を、確実な形にする方法
親が遺言を作成し、「介護を担ってくれた〇〇に、感謝の気持ちとして財産の一部を遺贈する」という意思をあらかじめ明確にしておけば、相続開始後に特別寄与料を主張・立証する手間そのものが不要になります。遺言には、財産の配分だけでなく、付言事項として「なぜこの配分にしたのか」という気持ちを書き添えることもでき、遺された家族の受け止め方も大きく変わります。
生命保険の受取人指定――遺産分割の対象外という性質を活かす
生命保険の死亡保険金は、受取人が指定されている場合、原則として受取人固有の財産となり、遺産分割の対象には含まれません。この性質を利用し、介護を担ってくれた家族を受取人に指定しておくことで、遺産分割協議を経ずに実質的な上乗せをする方法もよく使われます。ただし、他の相続人との差があまりに大きいと、遺留分侵害額請求など別の形で争いになる可能性もあるため、バランスを考えた設計が必要です。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の税額計算や保険商品の推奨を行うものではありません。保険のご相談は、全社を比較できる提携乗合代理店をご紹介します。ご紹介にあたり当社が紹介料を受け取る場合がありますが、紹介料の有無でご提案の内容は変えません。
立替費用の記録――すべての対策の土台になるもの
遺言を作るにせよ、万一特別寄与料を主張するにせよ、共通して重要になるのが記録です。いつ、何をしたか、いくら立て替えたか。通帳のコピー、領収書、介護日誌のようなメモを日頃から残しておくことで、いざという時の主張の土台になります。記録がなければ、どれだけ実際に負担していても証明する手段がありません。
親が元気なうちにできる生前対策3つ
- 介護日誌・立替記録をつける習慣をつける――万一の特別寄与料の主張にも欠かせない土台です。
- 遺言書を作成しておいてもらう――事後の争いを避ける最も確実な方法です。付言事項で気持ちを添えることもできます。
- 生命保険の受取人指定を検討する――遺産分割協議を経ずに実質的な上乗せができる方法として、専門家と一緒に検討しておきます。
セルフチェック――当てはまる項目はいくつありますか
- 介護のために、仕事を減らす・休むなど、生活の一部を犠牲にしてきた
- 自分は相続人ではないのに、介護費用を継続的に立て替えている、または多く負担している
- 介護日誌や立替記録などの証拠を残していない
- 親の遺言や、生命保険の受取人が誰なのかを把握していない
- このまま何も対策しなければ、相続でもめるのではという不安がある
0〜1個――今のところ大きなリスクは低い状況です。記録を残す習慣だけは続けておきましょう。
2〜3個――相続でのトラブルの芽が、すでに育ち始めている可能性があります。早めに家族での話し合いと記録をおすすめします。
4個以上――放置すると、相続で「頑張りが報われない」結果になるリスクが高い状況です。遺言や保険など、具体的な対策の検討を強くおすすめします。
あわせて読みたい関連記事
- 介護は誰がする?「長女だから」「嫁だから」に法律上の根拠はあるのか
- 介護を頑張った分、お金をもらうことはできる?寄与分と特別寄与料をやさしく解説
- 介護と相続はどうつながる?頑張った人が報われる仕組みを完全解説
- 親の介護で悩んだら|負担の偏り・気持ち・お金・相続までの総合ガイド
こんな方には専門家は不要です
当社は「不要なサービスは不要」とお伝えする方針です。上のチェックで該当が0〜1個だった方は、ご自身での記録管理だけで対応できる可能性が高い状況です。費用をかけて専門家に依頼する必要はありません。判断に迷う点がある場合は、30分の整理面談(無料)でご一緒に確認できます。
一方で、該当が多かった方や、遺言・保険の設計まで踏み込んで考えたい方は、30分の無料相談でご一緒に整理することもできます。その場で契約や結論をお願いすることはなく、必要なければ「今は不要です」とお伝えしても困りません。ご相談を無料にしているのは、そのためです。ご自身やご家族だけで判断がつかない場合は、まずは無料のお問い合わせ窓口からご相談ください。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 特別寄与料は、誰でも請求できますか?
被相続人の親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)であって、相続人ではない人が対象です。相続放棄をした人や、相続欠格・廃除により相続権を失った人は対象外です。
Q2. 介護を手伝った程度でも、特別寄与料はもらえますか?
もらえない可能性が高いです。「無償性」「継続性」「専従性」など、通常期待される範囲を超えた特別な貢献であることが必要とされ、単発的・一時的な手伝いは対象になりにくいのが実情です。
Q3. 特別寄与料の金額は、どのくらいが相場ですか?
法律で一律に決まっているわけではありません。介護保険の訪問介護報酬の基準額などを参考にしつつ、期間や専従性の程度を踏まえて個別に算定されるのが実務上の考え方です。具体的な見立ては専門家への相談をおすすめします。
Q4. 相続人が特別寄与料の支払いに応じてくれません。どうすればよいですか?
相続人との協議で合意できない場合、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求することができます。ただし、期限(相続の開始及び相続人を知った時から6か月、または相続開始の時から1年)があるため、早めの対応が必要です。
Q5. 特別寄与料でもめるくらいなら、最初から遺言にしておいたほうがよいのでしょうか?
その通りです。特別寄与料は相続後に交渉や手続きを経てはじめて確定するものであり、時間と労力がかかります。親が元気なうちに遺言で意思を明確にしておくほうが、確実性が高く、家族関係への負担も小さく済むケースが多くあります。
相続人でないという理由だけで、あなたの介護への貢献が報われないわけではありません。特別寄与料という制度があること、そして相続後に主張するより相続前に形にしておくほうが確実であることを、ぜひ知っておいてください。
【無料配布】わが家の安心メモ
金額は書かない、A4・1枚の終活きっかけシート。帰省のときに親子で書き込むだけで、「もしもの時に困らないように」の話し合いが自然に始められます。
無料の「わが家の安心メモ」を見る