「自分が亡くなった後、手続きは誰がしてくれるのだろう」「子供がいないと、財産は誰のものになるのだろう」——おひとりさまや子供のいない夫婦が老後を考えるとき、こうした不安は避けて通れません。実は、相続人が少ない、あるいはいない世帯こそ、生前の準備が最も重要になる層です。頼れる家族が自動的に動いてくれる前提が成り立たないぶん、元気なうちに「仕組み」を用意しておく必要があるからです。
この記事では、愛知県内で相続・生前対策のご相談を受けている当社の視点から、おひとりさま・子供のいない夫婦が老後に準備すべき5つの備えを、中立の立場で整理します。特定の商品やサービスを勧めるのではなく、「本当に必要なものは何か」を見極める視点でお伝えします。まずは全体像をつかんでいただくことを目的としていますので、気になるところから読み進めてください。
なぜ「おひとりさま・子なし夫婦」こそ準備が必要なのか
子供がいる世帯では、判断能力が低下したときの財産管理も、亡くなった後の手続きも、多くの場合は子供が中心になって動きます。ところが、おひとりさまや子供のいない夫婦では、その「当然の担い手」がいません。具体的には、次のような場面で困りごとが生じやすくなります。
- 認知症などで判断能力が低下すると、預金の引き出しや不動産の売却ができなくなる(口座凍結)
- 入院・施設入居の手続きや保証人を、誰に頼めばよいかわからない
- 亡くなった後の葬儀・納骨・行政手続き・遺品整理を担う人がいない
- 遺言書がないと、疎遠な兄弟姉妹や甥・姪が相続人になり、思わぬトラブルになる
- 相続人が一人もいない場合、財産は最終的に国庫(国のもの)に入る
いずれも、本人が元気なうちにしか用意できない備えが数多くあります。判断能力が低下してからでは、契約や遺言の作成そのものができなくなるためです。「まだ元気だから」と先延ばしにするのではなく、「元気な今だからこそ」始めることが、将来の安心につながります。
おひとりさま・子なし夫婦が準備すべき5つの備え
準備すべき5つの備え 早わかり
判断能力が低下したときの備え
任意後見制度+見守り契約。元気なうちに、信頼できる専門家・第三者へ財産管理を託す準備をしておく。
亡くなった後の事務を託す
死後事務委任契約で、葬儀・納骨・行政手続き・遺品整理などの担い手を生前に決めておく。
財産を「誰に遺すか」を決める
遺言書を作成する。子どもがいないと、遺言書がなければ兄弟姉妹・甥姪が相続人になる。
医療・終末期の意思を示す
延命治療などの希望を書面に残す。尊厳死宣言公正証書という方法もある。
認知症による口座凍結への対策
任意後見のほか、柔軟な財産管理ができる家族信託という選択肢も検討する。
1. 判断能力が低下したときの備え(任意後見・見守り)
まず考えたいのが、生きている間に判断能力が低下したときの備えです。代表的なのが任意後見制度で、元気なうちに「将来判断能力が低下したら、この人に財産管理や契約を任せたい」と自分で後見人を選び、公正証書で契約しておく仕組みです。家族に頼れないおひとりさまは、信頼できる専門家や第三者を後見人に選ぶことができます。あわせて、定期的に安否を確認する見守り契約を組み合わせるケースも多くあります。おひとりさまが利用する際のメリットや注意点は、任意後見制度、おひとりさまが利用するメリットで詳しく解説しています。
2. 亡くなった後の事務を託す(死後事務委任契約)
意外と見落とされがちなのが、亡くなった「後」の手続きです。葬儀・納骨、病院や施設の費用精算、公共料金やサブスクの解約、行政への届出、遺品整理——これらは相続とは別に、誰かが実際に動かなければ進みません。子供がいれば当然に担いますが、おひとりさまにはその担い手がいません。そこで有効なのが死後事務委任契約です。生前に「亡くなった後の事務を、この人に任せる」と契約しておくことで、身寄りに頼れない方でも、自分の希望どおりに死後の手続きを進めてもらえます。詳しくは死後事務委任契約とは?身寄りに頼れない方の備えをご覧ください。
3. 財産を「誰に遺すか」を決める(遺言書)
子供のいない夫婦やおひとりさまにとって、遺言書は特に重要です。子供がいない場合、法定相続人は配偶者と親、親がいなければ配偶者と兄弟姉妹(すでに亡くなっていれば甥・姪)になります。つまり、「配偶者に全部遺したい」と思っていても、遺言書がなければ兄弟姉妹や甥・姪と遺産を分けることになるのです。相続人が配偶者と兄弟姉妹(甥姪)になる場合、兄弟姉妹側には遺留分がないため、「全財産を妻(夫)に相続させる」と書いた遺言1枚で全部を配偶者に渡せます。遺言に最低限入れておく4点は財産を全部妻(夫)に相続させたい|子どもがいない夫婦は遺言1枚で決まるにまとめています。誰が相続人になるのかは子供のいない夫婦、財産は誰が相続するかで、遺言書がない場合に何が起きるかは遺言書がないとどうなるか?子供がいない場合の法定相続で詳しく整理しています。兄弟姉妹の側から見た順位の判定表と、配偶者と兄弟で分けるときの計算例は兄弟が相続人になる場合の割合と順位の判定表にまとめています。
4. 医療・終末期の意思を示しておく
延命治療をどうするか、終末期にどのような医療を望むか。こうした意思は、判断能力があるうちに示しておかないと、いざというときに周囲が迷います。おひとりさまの場合、代わりに判断してくれる家族がいないため、あらかじめ意思を書面に残しておく意義が大きくなります。法的書面として尊厳死宣言公正証書を作成する方法もあります(医療上の判断そのものは医師の領域です)。制度の位置づけは終末期医療の意思表示、尊厳死宣言公正証書とはで解説しています。
5. 認知症による口座凍結への対策
認知症で判断能力が低下すると、本人名義の預金が事実上凍結され、家族でも引き出せなくなります。おひとりさまは代わりに動く家族がいないため、影響がより深刻です。対策としては、任意後見のほか、柔軟な財産管理ができる家族信託という選択肢もあります。仕組みや費用は任意後見制度の費用はいくら?とあわせて比較検討するとよいでしょう。
見落とされがちな「相続人がいない」ケースの行方
身寄りがなく、法定相続人が一人もいない場合、遺産は最終的に国庫に帰属します(特別縁故者への分与などの手続きを経る場合もあります)。「お世話になった知人や、支援したい団体に遺したい」という希望があるなら、遺言書による遺贈が基本の方法になります(死因贈与契約という手段もありますが、実務では遺言書によることがほとんどです)。何もしなければ自分の意思とは無関係に処理されてしまうため、「誰に・何を遺したいか」を早めに形にしておくことが大切です。
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5つのうち、まず何から手をつけるか
ご家族の人数と、だいたいの財産額を選ぶだけです。遺言・任意後見・死後事務のどれを先に整えるかが、7問で順番になって出ます。
準備の進め方と優先順位
5つの備えをすべて一度に整える必要はありません。多くのおひとりさま・子なし夫婦にとって、優先順位はおおむね次のようになります。
- 財産と相続人の全体像を把握する(誰が相続人になるか、財産はどこに何があるか)
- 遺言書を作成する(「誰に遺すか」を確定させる)
- 判断能力低下への備え(任意後見・家族信託)を検討する
- 死後事務委任契約で、亡くなった後の手続きの担い手を決める
- 医療・終末期の意思を書面に残す
これらは互いに関連しており、任意後見・死後事務委任・遺言をひとつの公正証書群としてまとめて設計することも可能です。全体を見渡してから着手すると、無駄な費用や重複を避けられます。
💡 ポイント:元気な「今」だからこそ動ける
遺言書・任意後見・死後事務委任・尊厳死宣言は、いずれも本人に判断能力があるうちにしか作成・契約できません。認知症などで判断能力が低下すると、選べる手段は法定後見に限られてしまいます。「まだ早い」と感じる時期こそ、準備の好機です。
今日の一歩:まず「誰が相続人になるか」を紙の上で確定させる
5つの備えは、どれも「誰が相続人か」が決まらないと設計できません。最初にやることは戸籍を取ることです。
行き先と、頼み方
市区町村の戸籍を担当する課(戸籍住民課・市民課など、名称は自治体により異なります)。窓口でも郵送でも請求できます。2024年3月から、本籍地以外の市区町村の窓口でも、ご自身・配偶者・父母や祖父母・子や孫の戸籍証明書をまとめて請求できる広域交付が始まりました。広域交付は本人が窓口に出向く場合だけの扱いで、郵送や代理人による請求には使えません。また兄弟姉妹の戸籍は広域交付の対象外です。子のいない方は兄弟姉妹・甥姪が相続人になり得るため、兄弟姉妹が誰かを確かめる親の出生から死亡までの戸籍が必要になります。親の戸籍は広域交付でも請求できますが、コンピュータ化されていない一部の古い戸籍は対象外なので、その分は本籍地に請求します。
持って行くもの・用意しておくもの
顔写真つきの本人確認書類(広域交付では必須)/手数料(戸籍謄本は1通450円、除籍・改製原戸籍は1通750円)/郵送の場合は定額小為替と返信用封筒。あわせて、通帳・保険証券・固定資産税の納税通知書を1か所に集め、A4用紙1枚に「どこに何があるか」を書き出しておくと、この先どの専門家に会っても話が早く進みます。
窓口・電話で伝える3点
①相続人を調べたいこと ②自分に子がいないこと(親や兄弟姉妹までさかのぼる必要があること) ③どこまでの戸籍が要るか分からないので教えてほしいこと。この3点を先に言うと、必要な範囲を職員が判断して案内してくれます。公証役場に問い合わせる段階では、遺言・任意後見・死後事務委任・尊厳死宣言をまとめて相談できるかを最初に聞いてください。別々に頼むより打ち合わせの回数が減ります。
死後事務を頼める相手が見つからないとき
親族に頼める人がいなくても、死後事務委任契約の受任者には専門職を選べます。あわせて、お住まいの市区町村の高齢者福祉の担当課や地域包括支援センターに、終活支援や身元保証の相談窓口があるかを聞いてみてください(取り組みの有無と内容は自治体により異なります)。判断能力が下がり始めた段階のお金の管理については、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業も相談先になります。
期限のかわりに効く目安
この準備に法律上の締切はありません。ただし遺言・任意後見・死後事務委任・尊厳死宣言は、いずれも本人に判断能力があるうちにしか作れません。締切がないぶん、「体調を崩した日」が実質の締切になります。
愛知県で相談するには
おひとりさま・子なし夫婦の備えは、法律・税務・実務が複雑に絡むため、早い段階で専門家に相談しながら進めるのが安心です。当社は愛知県内で、複数の提携行政書士による監修体制のもと、中立の立場でご相談を承っています。「何が本当に必要か」の見極めからお手伝いしますので、まずはご自身の状況を整理することから始めてみてください。
よくある質問(FAQ)
子供がいない夫婦です。何から準備すればいいですか?
まずは「自分たちが亡くなったとき、誰が相続人になるか」を確認し、遺言書の作成から検討するのが近道です。子供がいない場合、配偶者に全財産を遺すには遺言書が実質的に不可欠です。あわせて、判断能力低下に備える任意後見も早めに検討しておくと安心です。
身寄りがなく頼れる人がいません。それでも準備できますか?
はい。任意後見人や死後事務委任の受任者には、信頼できる専門家や第三者を選ぶことができます。家族がいなくても、契約という形で「自分の代わりに動いてくれる仕組み」を用意できるのが、これらの制度の大きな意義です。
元気なうちにやっておかないと、後からでは遅いのですか?
遺言書・任意後見・死後事務委任・尊厳死宣言などは、いずれも本人に判断能力があることが前提です。認知症などで判断能力が低下すると作成・契約ができなくなり、選べる手段が法定後見に限られてしまいます。「まだ早い」と感じる時期こそ準備の好機です。
相続人が一人もいないと、財産はどうなりますか?
法定相続人がいない場合、遺産は原則として国庫に帰属します。特定の人や団体に遺したい希望があるなら、遺言書による遺贈が必要です。何もしなければ自分の意思とは無関係に処理されるため、早めに準備しておくと安心です。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。複数の提携行政書士による監修体制で運営しており、特定個人の士業を推奨するものではありません。個別の税額計算は税理士にご相談ください。
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