不動産しかない相続の分け方|代償分割の現金をどう用意するか(預金・分割払い・保険)

父が亡くなって財産を数えてみたら、実家の土地建物が2,500万円、預金は葬儀費用で目減りして200万円。相続人は自分と弟と妹の3人。実家には自分が親と同居していて、これからも住み続けたい。でも、弟と妹に渡せる現金がない。——遺産の中身が不動産に偏っている家では、この形で話し合いが止まります。

この記事では、分け方の選択肢を4つに整理したうえで、いちばん詰まりやすい「代償金の現金をどこから出すか」を3案で具体的に示します。あわせて、親がまだ元気なうちにしか用意できない3案目(死亡保険金)について、受取人の置き方と、協議書に何と書けば贈与税の話にならないかまで書きます。

目次

先に結論:分け方は4つ、代償金の出どころは3つ

① 不動産しかない相続の分け方は、この4つしかない
🏠
現物分割
そのまま1人が
受け取る
💴
代償分割
継ぐ人が
現金を渡す
🏷
換価分割
売って
お金を分ける
👥
共有分割
先送りに
なりやすい
② 代償分割を選ぶなら、渡す現金の出どころは3つ
🏦
継ぐ人の預金
即日
📅
分割払い
数年
🛡
死亡保険金
数日
3案のうち、亡くなってからでは間に合わないのは
3つ目だけ
保険は、親が元気で、健康状態の告知が通るうちにしか用意できません
※2026年9月時点。代償分割の相続税課税価格の考え方は国税庁タックスアンサーNo.4173による。

4つのうち、家族が住み続けるなら現実的な選択肢は代償分割です。そして代償分割でつまずくのは、条項の書き方より先に「現金がない」という一点です。だから、この記事の中心は3つの原資のほうにあります。

4つの分け方を、実家がある家の目線で比べる

分け方やること向いている家詰まる点
現物分割実家は長男、預金は二男、というように財産ごとに割り当てる不動産のほかに預金や株がそれなりにある不動産の比重が大きいと、金額が全くそろわない
代償分割1人が実家を取得し、他の相続人に金銭を渡す誰かが住み続ける、事業で使っている払う側に現金が要る。協議書の書き方で贈与税リスク
換価分割売却して、手取りを持分に応じて分ける誰も住まない、全員が現金で欲しい譲渡所得税と売却費用が引かれる。売れるまで金額が確定しない
共有分割持分3分の1ずつ、というように共有名義で登記する短期間で売る前提が全員で共有できている場合のみ売る・貸す・建て替えるのに全員の同意が要る。次の相続で持分が細分化する
2026年9月時点。実家を売るか住み続けるかの判断軸は実家を売る・貸す・住み続ける、どう選ぶ?で詳しく整理しています。

換価分割は「分けやすさ」では最強です。売って現金にすれば、金額の議論がなくなります。ただし、相続してから売るまでの間に固定資産税と管理の手間がかかり、売却益が出れば譲渡所得税が引かれます。相続した不動産を相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売れば、払った相続税の一部を取得費に加算できる特例(国税庁タックスアンサーNo.3267)もあるので、売る方向なら期限は意識しておく価値があります。売却の段取りは相続した家を売却する手順と注意点にまとめました。

「とりあえず共有」がいちばん高くつく

話し合いがまとまらないとき、いちばん選ばれやすいのが共有です。全員が納得しやすく、その場は丸く収まります。ただ、共有は決着ではなく先送りです。当社の相談でも、いま持ち込まれる困りごとの多くは「20年前に共有にした実家」です。

🔒
売るにも貸すにも全員の同意
共有物の売却や建て替えには共有者全員の同意が必要です。1人でも連絡が取れない、判断能力が落ちている、となると手が止まります。
👥
次の相続で持分が細分化する
3人の共有が、それぞれの相続で6人・12人と増えます。会ったことのない親族と実印をそろえる作業になります。
10年で分け方の物差しが変わる
相続開始から10年を過ぎると、遺産分割は原則として法定相続分で行うことになります(民法904条の3)。生前にもらっていた分や介護の貢献を主張しづらくなります。

もうひとつ、2024年4月1日から相続登記の申請が義務になりました。不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記の申請をしないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になります。話し合いが長引きそうなら、まず相続人申告登記で義務だけ果たしておく、という手も使えます(法務省・相続登記の申請義務化/2026年9月時点)。「決まるまで放っておく」が選べなくなった、という点は押さえておいてください。

代償金の原資は、この3つしかない

代償分割を選んだ瞬間、話は「いくら渡すか」から「そのお金をどこから出すか」に移ります。選択肢は3つです。

1)実家を継ぐ人の預金から出す

いちばん単純で、いちばん揉めない方法です。協議書に金額と期限を書き、期限までに振り込む。それで終わります。問題は、実家を継ぐ人が数百万円から1,000万円超の現金を用意できる家がそれほど多くないことです。自分の老後資金や子どもの学費を全部吐き出して払う形になると、数年後に「やっぱり売る」となりかねません。

金融機関から借りて払う方法もありますが、住宅ローンとは別枠の借入になるため、条件は個別に確認が必要です。ここは金額の大きさで判断が変わるところなので、無理のある額を約束しないことのほうが大事です。

2)分割払いにする

手元にまとまった現金がないとき、実務でよく使われる形です。「一時金300万円+毎月10万円を5年間」のように、返せる金額から逆算して総額を決めます。

分割払いにするなら、協議書に必ず入れておきたい条項が2つあります。ひとつは支払回数と各回の金額(総額と回数が合っているか、必ず電卓で確認してください)。もうひとつは、払えなかったときの定めです。「1回でも怠ったときは期限の利益を失い、残額を直ちに支払う」という一文がないと、1回目の遅れが起きた時点で、残りをまとめて請求できるのか、毎月ぶんを個別に催促するのかが決まりません。条項の実物は代償分割の遺産分割協議書の書き方に載せてあります。

分割払いの弱点は、期間が長いほど関係が持たないことです。最初の2年は順調でも、払う側の収入が変わったり、受け取る側に事情ができたりします。5年を超える約束は、公正証書にしておくかどうかまで含めて考えたほうがいい水準です。

3)親が掛けた死亡保険金で用意する

いちばん確実で、いちばん準備が要る方法です。親が契約者・被保険者となり、実家を継ぐ子を受取人に指定した生命保険に入っておく。親が亡くなったとき、その子の手元に保険金が入り、それを原資として他の相続人に代償金を渡します。

この方法の強みは2つあります。ひとつは、死亡保険金は受取人固有の財産とされ、原則として遺産分割の対象にならないこと。つまり「協議がまとまるまで使えない」状態になりません。もうひとつは早さです。主要各社の約款では請求書類の到着日の翌日から原則5営業日以内に支払われる扱いで、実務では書類がそろっていれば3営業日程度で入金されることも多くあります。相続税の申告・納付期限が10か月であることを考えると、この早さは効きます。

保険で代償金を用意するときの設計

受取人は「実家を継いで、代償金を払う人」にする

ここを間違えると、この設計は成立しません。受取人が母(配偶者)のままなら、保険金は母に入ります。実家を継ぐ子は代償金の原資を持たないままです。代償金の原資として保険を使うなら、受取人は代償金を払う人でなければ意味がありません。

逆に、他の相続人(弟や妹)を受取人にして「保険金を受け取ったのだから代償金はなしでいい」とする組み方もありえます。ただしこの場合、保険金は遺産分割の対象外なので、法律上は「保険金を受け取ったうえで、遺産の法定相続分も請求する」ことが理屈としては可能です。それを封じるには、後述のとおり協議書での整理が要ります。

非課税枠が使える

相続人が受け取った死亡保険金には、相続税の非課税枠があります。

死亡保険金の非課税限度額
500万円 × 法定相続人の数
相続人が3人なら1,500万円まで。同じ1,500万円でも、預金で残せば全額が課税対象、保険金で残せば非課税枠の範囲で課税価格から外れます。
出典:国税庁タックスアンサーNo.4114「相続税の課税対象になる死亡保険金」(2026年9月時点)。相続人以外の人が受け取った死亡保険金には非課税の適用はありません。

ここは「代償金の原資を作る」という目的と、「相続税を軽くする」という目的が同じ方向を向く、数少ない場面です。非課税枠の計算方法は生命保険の死亡保険金にかかる相続税の非課税枠で詳しく扱っています。受取人と金額の置き方まで含めて確認したい場合は、相続に関わる保険の30分無料相談もあります。

保険金で代償金を払っても贈与にならない条件

ここが実務でいちばん取りこぼされる点です。保険金を受け取った子が、そのお金を弟や妹に渡す。この動きだけを見ると「子から弟妹への現金の移動」であり、年110万円の基礎控除を超えれば贈与税の対象になりかねません。

防ぐ方法は、遺産分割協議書に「代償として支払う」と明記することです。国税庁タックスアンサーNo.4173では、代償分割が行われた場合、代償金を支払った人の課税価格は「取得した現物の財産の価額から交付した代償財産の価額を控除した金額」、受け取った人の課税価格は「取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額の合計額」と整理されています。つまり、代償金として位置づけられていれば、相続税の枠内の精算として扱われます。

条項例(保険金を原資にする場合)
甲(相続人 山田一郎)は、前条記載の遺産を取得した代償として、乙(相続人 山田二郎)に対し、金800万円の支払義務を負担し、これを令和〇年〇月〇日限り、下記口座に振り込む方法により支払う。
【振込先】〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号1234567 口座名義 ヤマダジロウ

ポイントは、条項に保険金のことを書く必要はない、という点です。原資が何であれ、「遺産を取得した代償として」という位置づけが書いてあれば足ります。金額は「相当額」ではなく確定した数字で書きます。

保険金が大きすぎると、別の議論が起きる

死亡保険金は原則として遺産分割の対象外ですが、例外があります。最高裁は、保険金の額や遺産総額に対する比率などから見て、受取人と他の相続人との間に生じる不公平が到底是認できないほど著しいと評価すべき特段の事情がある場合には、特別受益に準じて持戻しの対象になりうる、という判断を示しています(最高裁平成16年10月29日決定)。

実務的な受け止め方はこうです。代償金として実際に他の相続人へ渡す前提で組んでいるなら、この議論はまず起きません。逆に、遺産のほとんどを保険金にして特定の子だけに渡す設計をすると、他の相続人から持ち出される余地が残ります。「保険で渡す」と「代償金として渡す」をセットにしておくことが、いちばん静かな形です。

相談現場から|相談員メモ

保険証券を見せていただくと、受取人が先に亡くなった方の名前のままになっている証券が珍しくありません。代償金の原資として保険を使うつもりなら、受取人が「実家を継いで代償金を払う人」になっていなければ、設計として成り立ちません。受取人は3〜5人程度まで指定でき、割合も指定できる会社が多いので、「長男6割・二男2割・長女2割」といった置き方も可能です。死亡保険金の支払いは主要各社で請求書類到着の翌日から原則5営業日以内、書類がそろっていれば3営業日程度で入金されることも多く、代償金の支払期限に間に合わせやすいのが実際のところです。いずれも会社・商品により異なりますので、いまの証券の内容は必ず現物で確認してください。

これは親が元気なうちにしかできない

3つの原資のうち、1と2は相続が起きてからでも組めます。3だけは違います。

原資いつまでに準備が要るか
継ぐ人の預金相続開始後でも間に合う(ただし額に限界がある)
分割払い相続開始後でも組める(関係の持続が前提)
死亡保険金親が生きていて、契約できる健康状態・年齢のうちだけ

親の年齢が上がるほど、入れる商品は限られていきます。持病があると通常の告知型は難しくなり、告知なしで入れるタイプには待機期間が設けられます。待機期間は会社により9か月・2年・3年と差があり、待機中に亡くなった場合の返還額の考え方も会社によって違います(2026年9月時点)。「そのうち考える」で1年過ごすと、選べる範囲が確実に狭くなる分野です。

あわせて、親の判断能力の問題もあります。認知症が進んだ後は新規の契約も、受取人の変更もできなくなります。実家が主な財産で、継ぐ人が決まっているなら、いま証券を1枚見直すだけで、将来の話し合いの形が変わります。生前にできる対策の全体像は生前対策の診断で見取り図を作れます。

うちはどうするか、順番に決める

  • 誰も住まないなら、換価分割を第一候補にする:分けやすさが段違いです。空き家のまま持ち続けるコストと、売却期限の特例を並べて考えます。
  • 誰かが住み続けるなら、代償分割で額を先に出す:不動産会社の査定額、相続税評価額、固定資産税評価額のどれを基準にするかを決め、確定した数字にします。
  • その額を、3つの原資のどれで払うか決める:預金で足りるか、足りなければ分割払いで返せる額か、親が存命なら保険で用意できるか。
  • 保険を使うなら、受取人と金額を先に直す:受取人が代償金を払う人になっているか、非課税枠の範囲に収まっているかを見ます。
  • 協議書に「代償として」と書く:金額・期限・振込先・払えなかったときの定めまで入れます。ひな形は遺産分割協議書の書き方とひな形にあります。

共有は、この5段階のどこにも入っていません。積極的に選ぶ理由がある場面はほとんどない、というのが率直なところです。

今日の一歩:代償金の額を決める前に、物差しを1つに決める

話し合いが止まるのは、金額でもめているからではなく、兄弟がそれぞれ違う物差しの数字を持ち寄っているからです。実家の価額には少なくとも3つの数字があります。①固定資産税評価額 ②相続税評価額(路線価から計算するもの) ③不動産会社の査定額(実勢価格)。同じ家でも①がいちばん低く、③がいちばん高く出るのがふつうです。どれを基準にするかを先に全員で決めてください。金額の議論はそのあとです。

①を取りに行くのが、いちばん早い一歩です。行き先は物件のある市区町村の資産税課(東京23区は都税事務所)。持ち物は、亡くなった方の死亡が分かる戸籍と、自分が相続人だと分かる戸籍、それに顔写真付きの本人確認書類と認印です。窓口では「相続の手続きで使います。故人名義の固定資産評価証明書と、名寄帳をお願いします」と言ってください。名寄帳まで頼むと、同じ市区町村内に持っている私道や小さな土地の取りこぼしを防げます。郵送でも請求できます(返信用封筒と定額小為替が必要です)。③は、売らない場合でも複数社に査定を出してもらうと、価格の幅が見えます。

断られたときの次の一手。「相続人であることが確認できない」と言われたら、亡くなった方の戸籍と自分の戸籍のつながりが分かるところまで追加してください(親子なら2通で足りることがほとんどです)。それでも判断がつかないと言われたら、その場でどの書類があれば出せるのかを聞いて紙にメモし、次の来庁で1回で終わらせます。

期限の目安:相続登記の申請は不動産を取得したことを知った日から3年以内。相続税の申告・納付は10か月。相続開始から10年を過ぎると遺産分割は原則として法定相続分で行うことになります(民法904条の3)。話し合いが長引きそうなら、まず相続人申告登記で登記の義務だけ果たしておく手もあります。

実家しかない相続で、代償金の出どころを探している方へ
分け方を決める前に、代償金がいくら必要で、それを誰がどう用意するのかを数字にしておくと、話し合いが途中で止まりません。30分の無料相談では、いまの財産の内訳をお聞きして、4つの分け方のどれが現実的か、保険を使うとしたら受取人と金額をどう置くかまで一緒に整理します。当社も保険募集を行う立場です。比較の結果「今は何もしなくてよい」が答えになることもあります。愛知県内は対面、それ以外はオンラインです。
お電話 052-766-5650(相談中は折り返しになります)

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本記事の制度・数値は2026年9月時点の情報にもとづいています。相続税・贈与税・譲渡所得税の取り扱いは、財産の内訳や評価方法、代償財産の種類によって結論が変わります。実際の申告や、保険を使った設計の可否については、税理士および契約する保険会社にご確認ください。保険の内容や支払いの取り扱いは、会社・商品により異なります。

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この記事を書いた人

「いまから相続」は、株式会社アシストプラスが運営する、相続の手続き・生前対策・終活に関する情報サイトです。愛知県内の相続相談先の選び方や費用相場、金融機関ごとの手続き、生前対策や終活の進め方など、地域の実情に即した実践的な情報をお届けしています。 なお、運営会社である株式会社アシストプラスには、「あいち相続あんしんセンター」代表を務める司法書士 今井裕司が一部出資しております。この関係性を踏まえ、記事内でのご紹介・ご案内は公平性を保つよう努めています。

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