二十年、三十年と同じ家で暮らしてきた。入院のたびに付き添い、最期を看取ったのもその人だった。それでも、亡くなった方の財産は法律上、その人には一円も渡りません。戸籍に婚姻の記載がないというだけの理由で、内縁の妻・夫は相続人になれないからです。
代わりに財産を受け取るのは、何十年も連絡を取っていない戸籍上の配偶者や、葬儀にも来なかった兄弟姉妹であることも珍しくありません。理不尽に感じられて当然だと思いますが、これが現在の日本の相続のルールです。
ただしこれは、「何もしなければ渡らない」という話でもあります。生前に手を打っておけば、パートナーに財産を残す道はいくつもあります。この記事では、内縁関係で財産を渡す4つの方法を比べたうえで、あなたの家族構成ではどれを軸にすべきかまで整理します。
何もしないまま亡くなると、財産はどこへ行く?
長年連れ添った内縁のパートナー
同じ家で40年
戸籍に婚姻の記載なし
相続人になれない
戸籍上つながっている人
別居中の配偶者
疎遠な兄弟姉妹・甥姪
法定相続分どおりに
遺言・生命保険などの手当てがない場合。相続人が一人もいないときに限り、家庭裁判所への申立て(特別縁故者)の道が残ります。
内縁の妻・夫に相続権がない理由
民法が相続人と定めているのは、戸籍上の配偶者と、子・直系尊属・兄弟姉妹という血族だけです。内縁関係はこの枠のどこにも入っていません。同居していたか、生計を一つにしていたか、介護をしたかどうかは、相続人かどうかの判定にはいっさい関係しないというのが法律の建て付けです。
相続の手続きは戸籍謄本をたどって相続人を確定するところから始まります。戸籍に載っていない人は、その入り口の時点で登場しません。だからこそ、生前に「戸籍とは別のルート」を用意しておくことが必要になります。
近年は「事実婚」という言い方も広まり、自治体のパートナーシップ制度に登録される方も増えました。ただ、これらは行政サービスや職場の福利厚生で配偶者に準じた扱いを受けるための仕組みであって、民法上の相続権を生じさせるものではありません。住民票の続柄を「夫(未届)」「妻(未届)」としている場合も同じです。内縁と呼ぼうと事実婚と呼ぼうと、相続の場面での扱いは変わらないとお考えください。
「何年住めば相続できる」という制度は存在しない
ご相談でもっとも多い誤解が、「内縁でも何年か一緒に住めば相続権が認められるのではないか」というものです。結論から言えば、同居10年でも40年でも、内縁のパートナーが法定相続人になることはありません。年数の経過によって相続権が発生する制度は、日本の民法にはないからです。
ただし、年数がまったく無意味というわけでもありません。同居年数や住民票の状態が判断材料になる場面は、相続そのものではなく別のところにあります。生命保険会社が内縁のパートナーを受取人として認めるかどうかの審査、遺族年金の生計維持関係の認定、賃貸住宅の借家権を引き継げるかどうか。いずれも「相続権」ではありませんが、実際の生活を守るうえでは重みのある論点です。
内縁でも保護される場面と、されない場面
内縁関係は、法律上まったく無視されているわけではありません。借地借家法には、賃借人が亡くなったときに同居していた内縁の配偶者が借家権を引き継げる仕組みがありますし、要件を満たせば遺族年金や健康保険の被扶養者として扱われることもあります。一方的に関係を破棄された場合に慰謝料が認められた裁判例もあります。
それでも、財産の相続だけは別扱いのままです。「生活のうえでは配偶者に近い保護があるのに、相続では他人」という、ねじれた状態が続いていると理解しておいてください。
実務でとくに困るのは、亡くなる前後の手続きの場面です。入院時の手術同意書、賃貸住宅の解約、携帯電話や公共料金の名義変更。そのたびに「ご家族の方ですか」と聞かれ、関係を説明することになります。財産をどう渡すかという話とあわせて、死後事務委任契約や任意後見契約で手続きの権限を渡しておく方法も、内縁のご夫婦では検討に値します。
パートナーに財産を渡す4つの方法を比べる
内縁のパートナーに財産を渡す手段は、大きく4つです。それぞれ確実性も手間も費用も違い、「後で揉めたときにどれだけ強いか」も違います。まず全体像を並べます。
表のとおり、生前にできる手当ての柱は遺言と生命保険の2本です。生前贈与は渡せる額とスピードに限りがあり、特別縁故者はそもそも「準備しておく方法」ではありません。
特別縁故者の制度を当てにする方は多いのですが、使えるのは相続人が一人もいないときだけです。疎遠でも兄弟姉妹や甥姪が一人でも生きていれば、この道は最初から閉じています。しかも認められるかどうかは家庭裁判所の判断で、財産の全部が渡るとも限りません。
生前贈与は、渡した分だけ確実に相手のものになるという点で分かりやすい方法です。ただし内縁関係では、婚姻期間20年以上の夫婦が使える贈与税の配偶者控除が使えません。年110万円の基礎控除の範囲で少しずつ動かす設計になりがちで、まとまった額を短期間で渡そうとすると税負担が重くなります。
不動産を生前贈与する場合はさらに慎重に考えてください。相続で引き継ぐ場合より登録免許税の税率が高く、不動産取得税もかかります。「住んでいる家だけはパートナーに」というご希望はよく伺いますが、贈与で渡すか、遺言で渡すか、あるいは住まいの権利とは切り離して現金を残すかで、最終的な負担額はかなり変わります。ここは試算をしてから決めるべきところです。
遺言を使うなら、公正証書を選ぶ
遺言には自筆で書く方法と、公証役場で作る公正証書遺言があります。内縁のパートナーに財産を渡す場面では、公正証書をおすすめしています。理由は単純で、後から争われやすい内容だからです。自筆の遺言は書き方の不備で無効になるおそれがあるうえ、亡くなった後に家庭裁判所の検認が必要で、そもそも相続人に見つけてもらえずに終わるという事故も起こります。法務局の保管制度を使えば検認は不要になりますが、内容が適法かどうかまで見てもらえるわけではありません。
もう一つ大切なのが、遺言執行者を決めておくことです。遺言に「パートナーへ渡す」と書いてあっても、預金を解約したり不動産の名義を変えたりする手続きは、誰かが実際に動かなければ進みません。相続人が快く協力してくれるとは限らない前提で考えるなら、執行者の指定はほぼ必須です。パートナーご本人を執行者にすることもできますが、相続人と直接やり取りする精神的な負担を思えば、専門家を指定しておくほうが穏当なことが多いと感じます。
なお実際のご相談では、どれか一つを選ぶというより、遺言と生命保険を組み合わせる形に落ち着くことがほとんどです。それぞれ得意な役割が違うからです。保険は「すぐ使える現金を、確実に、その人へ」。遺言は「不動産を含めた残りの財産を、誰にどう配分するか」。この分担で考えると、何をどちらに載せるべきかが見えやすくなります。
見落とされやすい税金の話
内縁のパートナーは法定相続人ではないため、遺贈でも死亡保険金でも、受け取った財産には相続税の2割加算が適用されます。また、死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は法定相続人が受け取る場合の制度で、内縁のパートナーには使えません。基礎控除の人数にも含まれません。「渡せるか」だけでなく「いくら手元に残るか」まで含めて、税額の試算は税理士にご確認ください。
戸籍上の配偶者がいるかどうかで、選ぶ順番が変わる
同じ「内縁のパートナーに残したい」でも、ご相談の中身は大きく二手に分かれます。どちらに当てはまるかで、遺言と保険のどちらを軸にすべきかが変わります。
あなたはどちらに当てはまりますか?
パターンA
離婚が成立していない配偶者がいる
パターンB
相続人は兄弟姉妹・甥姪だけ
パターンA:離婚が成立していない配偶者がいる場合
別居が20年続いていても、離婚届が出ていない限り戸籍上の配偶者は相続人のままです。ここで遺言に「全財産を内縁のパートナーへ」と書くと、配偶者の遺留分と正面からぶつかります。遺留分を請求されれば、パートナーは受け取った財産に見合う金銭を支払わなければなりません。渡したはずの家を売る話にまで発展することもあります。
一方、死亡保険金は受取人固有の財産と位置づけられており、判例上、原則として遺留分算定の基礎となる財産には含まれないとされています。ただし最高裁は、保険金額が遺産の総額に比べて著しく過大であるなど「特段の事情」がある場合には、例外的に特別受益に準じて持ち戻しの対象となり得るという判断も示しています。
つまり、「保険にすれば遺留分を確実に避けられる」と言い切ることはできません。財産のほとんどを保険に寄せるような極端な設計は、かえって争いの火種になります。パートナーの生活に必要な額を保険で確保し、残りは遺言で配分するといった組み合わせが現実的です。判断が分かれる領域なので、金額の設計は専門家を交えて決めてください。詳しくは生命保険と遺留分の関係を解説した記事で整理しています。
もっとも確実な解決は離婚を成立させることですが、相手の所在が分からない、話し合いに応じてもらえないといった事情があるからこそ、内縁のまま今日に至っているという方がほとんどです。遺留分をあらかじめ放棄してもらう制度もありますが、家庭裁判所の許可と相手の協力が前提になります。現実には、「揉めたとしても壊れにくい形をどう作っておくか」という話になります。
パターンB:相続人が兄弟姉妹・甥姪だけの場合
ご自身が独身で、お子さんも親御さんもいない場合、相続人は兄弟姉妹(亡くなっていれば甥姪)になります。この場合、事情はずいぶん楽になります。兄弟姉妹には遺留分がないからです。遺言で「全財産を内縁のパートナーへ」と書けば、その内容がそのまま通ります。
注意したいのは、親御さんが健在なケースです。直系尊属である親は兄弟姉妹より先順位の相続人で、しかも遺留分があります。この場合はパターンAに近い設計が必要になります。相続人が誰になるかの整理は、子供のいない夫婦の法定相続人を解説した記事もあわせてご覧ください。
受取人に指定できる相手の範囲や、受取人が先に亡くなった場合の扱いなど実務上の論点は、相続人が兄弟姉妹・甥姪だけの人の受取人指定・6つの実務論点で詳しく解説しています。パターンBでも、遺言だけで完結させないほうが安全です。遺言があっても、預金の解約や不動産の名義変更には時間がかかります。当面の生活費と葬儀費用は保険金で早く渡し、残りを遺言で配分する。この二段構えが、実務ではもっとも滞りが少ない形です。
生命保険の受取人指定という選択肢
死亡保険金は、受取人に指定された人の固有の財産です。遺産分割協議の対象にならないため、相続人の署名や実印をもらう必要がありません。関係が良好とは言えない相続人と一度も顔を合わせずに、パートナーが自分の口座で受け取れる。この点が、内縁関係では決定的に効いてきます。
パートナーの手元にお金が届くまで
遺言で預金や不動産を渡す場合
口座凍結
遺言の執行・名義変更
やっと使える
パートナーを保険金の受取人にした場合
受取人が請求
協議も同意も不要
パートナーの口座へ
公式は原則5営業日以内・実務では3営業日程度のことも(会社・請求内容により異なります)
各社の公式案内では「請求書類が到着した日の翌日から起算して原則5営業日以内」とされています。書類に不備がなければ、それより早く着金することもあります。葬儀費用や当面の生活費という、待てないお金をまかなえるという意味で、このスピードには実用的な価値があります。
誰にいくら渡すかを、割合で指定できる
受取人は一人に限られません。商品にもよりますが、3人から5人程度まで指定でき、しかも「パートナーに7割、姪に3割」といった割合まで決められます。指定できる人数や割合の刻み方は保険会社によって異なりますが、現金の行き先を自分で決めておくという点では、遺言に近い働きをします。
税金の扱いも押さえておいてください。契約者と被保険者がご本人で、受取人がパートナーという形にした場合、受け取った保険金は「みなし相続財産」として相続税の対象になります。所得税や贈与税ではありません。ただし先に触れたとおり、法定相続人ではないため非課税枠は使えず、税額は2割加算されます。それでも、遺産分割を経ずに現金が届くという利点のほうが大きいと判断されるご相談は少なくありません。金額次第で結論は変わりますので、試算は税理士にご確認ください。
受取人の変更は、契約者本人の意思確認ができる間ならいつでも可能です。判断能力が低下してからでは手続きが難しくなるため、変えたいと思った時点で早めに動いてください。仕組みの詳細は内縁の妻が生命保険を受け取るための条件をまとめた記事、商品としての性質は一時払い終身保険の解説記事で扱っています。
相談現場から|相談員メモ
内縁のパートナーを受取人にできるかどうかは、保険会社ごとに基準が決まっていますが、その基準は公式には公開されていません。実務では、同居年数、住民票が同一世帯になっているか、双方の戸籍に婚姻の記載がないかといった点を見て、会社が個別に判断しています。同じご事情でもA社では難しく、B社では認められるということが実際に起こります。ですから「内縁だから無理」と決めつける必要はなく、逆に「大丈夫なはず」と思い込むのも危険です。ご事情を伺ったうえで、会社ごとに当たってみるのが確実です。審査で使う書類の整え方は内縁関係を証明する方法にまとめています。
「うちの場合、パートナーを受取人にできる?」を確認したい方へ
基準は保険会社ごとに異なり、公式には公開されていません。同居の年数や住民票の状態などをうかがえれば、どの保険会社なら認められる可能性があるかを含めて当社で確認できます。
当社の相談員はすべての保険会社の商品を扱えるため、1社の基準に当てはまらなかったからといって終わりにはしません。通る可能性のある会社を横断して確認できます。あわせて、遺言と保険をどう組み合わせるか、そもそも保険を使う必要があるのかというところからご一緒に整理します。
「うちの場合は?」を、事情を話せる範囲で聞いてみる
保険会社の基準は公開されていないため、ご事情を伺って会社ごとに当たるしかありません。同居の年数、住民票の状態、戸籍上のご事情など、お話しいただける範囲で結構です。お名前だけで、戸籍や住民票をお見せいただく必要はありません。「うちは無理だろう」と思われているケースで、認めてくれる会社が見つかることもあります。
相談員は全社の保険を扱える募集人で、相続の相談を本業にしている行政書士法人に所属しています。保険が向かない事情なら、遺言や他の方法をそのままお伝えします。
30分の無料相談で聞いてみる(オンライン・全国対応)→お電話でも承ります:052-766-5650(相談中の場合は折り返しご連絡します)。パートナーの方とご一緒でも、お一人でも構いません。
よくある質問
何年同居すれば、内縁の妻でも相続できますか?
何年住んでも、内縁のパートナーが法定相続人になることはありません。年数によって相続権が生まれる制度がないためです。同居年数が意味を持つのは、生命保険の受取人として認められるかどうかの審査や、遺族年金の生計維持関係の認定といった別の場面です。相続そのものについては、遺言か生命保険の受取人指定で対応することになります。
内縁の妻でも遺族年金は受け取れますか?
受け取れる場合があります(条件と請求の流れは内縁の妻・夫は遺族年金を受け取れるかで詳しく解説しています)。年金の制度では、事実上の婚姻関係にある方も配偶者として扱われる余地があり、生計を維持されていたことを示せれば支給の対象になり得ます。ただし住民票や公共料金の負担状況などによる証明が必要で、判断は個別に行われます。相続とはまったく別の審査ですので、具体的な可否と必要書類はお近くの年金事務所にご確認ください。
特別縁故者とは、どんな制度ですか?
相続人が一人もいないときに、亡くなった方と特別に親しい関係にあった人が、家庭裁判所に申し立てて財産の分与を受けられる制度です。生計を同じくしていた人や療養看護に努めた人が対象とされ、内縁のパートナーはここに当てはまり得ます。ただし相続財産清算人の選任から始まり、結論が出るまでに1年以上かかることもあります。分与の可否も金額も裁判所の判断次第で、相続人が一人でもいれば使えません。生前の準備の代わりにはならない、最後の受け皿だとお考えください。
おひとりさま・子どものいないご夫婦の備え全体については、老後に準備しておきたい5つの備えをまとめた記事で整理しています。
本記事は制度の一般的な説明であり、特定の保険商品を推奨するものではありません。税額の試算や申告については税理士に、判例の当てはめは個別の事情によって結論が変わるため専門家にご確認ください。制度・数値は執筆時点の情報です。本記事は行政書士の監修を受ける予定です。