家族信託は途中でやめられる?解除・信託終了の手続きと注意点

「もう信託は要らないかもしれない」——家族信託を結んで数年たったころ、当初想定していた状況が変わり、そう感じ始める方は少なくありません。信託を組んだあとに不動産を売却して資金化する方針に変わった、受託者を任せていた子との関係が変化した、あるいは当初心配していた認知症のリスクが今のところ現実化せず「思ったほど必要なかったかもしれない」と感じる——きっかけは家庭によってさまざまです。「一度結んだ信託は、もう後戻りできないのでは」という不安を抱えたまま、契約書をしまい込んでいる方に向けて、この記事では家族信託の終了事由・清算手続き・不動産登記・税務上の注意点を整理します。

✅ この記事の結論(30秒まとめ)

  • 家族信託は、信託期間の満了、目的の達成・達成不能、委託者・受託者の合意、契約書に定めた終了事由への該当など、複数のパターンで終了させることができます
  • 終了後は清算受託者が債権の取り立てや債務の弁済などの清算事務を行い、それを終えてから残余財産を帰属権利者に引き渡す、という順序が法律で定められています
  • 不動産が信託財産に含まれる場合は、信託登記の抹消と所有権移転登記が必要になり、登録免許税などの実費がかかります
  • 残余財産を誰が受け取るかによって贈与税・相続税のいずれかが発生しうるため、個別の税額は税理士への確認をおすすめします

「途中でやめられないなら、簡単には結べない」——そう感じて信託契約に踏み切れない方もいれば、逆に「もう信託は要らないのでは」と思いながら、解除の手続きが分からず契約をそのままにしている方もいます。実際には、信託契約の内容や結んだ時期によって、終了のしやすさはケースごとに異なります。まずは、法律上どのようなパターンで信託が終了するのかを整理しておきましょう。

目次

家族信託の終了事由は主に4パターン|信託法で定められたルール

信託法では、信託が終了する事由がいくつか定められています。家族信託の実務でよく登場するのは、次のようなパターンです。

  • 信託期間の満了(契約書であらかじめ「委託者の死亡まで」などと定めた期間が経過したとき)
  • 信託の目的を達成した、または達成することができなくなったとき(資産管理を目的としていたが、その必要がなくなった場合など)
  • 委託者と受託者の合意により終了させるとき(契約書に別段の定めがない限り、両者の合意があれば終了させられるのが一般的です)
  • 信託契約書であらかじめ定めた終了事由に該当したとき(「不動産をすべて売却したとき」「受益者が施設に入所したとき」など、契約時に取り決めた条件)

このほか、信託法には受託者が不在の状態が一定期間続いた場合など、法律上当然に終了する事由も定められていますが、家族信託の実務で意識しておきたいのは、上記の4パターンが中心です。どの事由に当てはまるかによって、必要な手続きや関係者の同意の要否が変わってきます。まずはご自身の信託契約書に、終了に関する条項がどう書かれているかを確認してみてください。そもそも家族信託がどのような仕組みで、任意後見・成年後見といった他の制度とどう違うのかは、家族信託で親の”資産凍結”を防ぐ|アパート・自社株の信託と任意後見・成年後見との違いで整理していますので、あわせてご確認ください。

信託が終わったら誰が清算する?清算受託者による清算手続きの流れ

信託が終了しても、その瞬間に財産がすぐ帰属権利者に渡るわけではありません。信託法上、終了後は「清算受託者」が清算事務を行い、それが終わってはじめて残余財産の引き渡しに進む、という順序が定められています。

  1. 清算受託者の就任(契約書に定めがなければ、通常は最後の受託者がそのまま清算受託者になります)
  2. 現務の結了(進行中の契約や事務を整理すること)
  3. 信託財産に属する債権の取り立て・信託債務の弁済
  4. 受益者に対して未払いの給付があれば、その弁済
  5. すべての債務を弁済したあと、残余財産を帰属権利者に給付

ポイントは、2〜4の債務を清算し終える前は、5の残余財産の給付ができないと法律上定められている点です。信託財産に借入れや未払金が残っている場合、帰属権利者への引き渡しがその分だけ遅れる可能性があります。清算受託者を誰にするか、清算の範囲をどこまでとするかは契約書の定め方次第で変わってくるため、契約時にあらかじめ決めておくことが望ましいといえます。

不動産が信託財産に含まれる場合の登記手続き

信託財産に自宅やアパートなどの不動産が含まれている場合は、信託が終了しても、それだけでは名義は変わりません。法務局で「信託登記の抹消」と「所有権移転登記」の申請が必要です。

登記の内容 登録免許税の目安 備考
信託登記の抹消 不動産1件につき1,000円程度 所有権移転登記とあわせて申請するのが一般的
通常の所有権移転登記(帰属権利者が委託者以外) 固定資産税評価額の2%程度 評価額や物件数により変動
委託者本人や、その相続人が帰属権利者になる場合 非課税、または0.4%程度に軽減される場合あり 軽減の可否・要件は登記時点の法令によって変わるため要確認

登録免許税は不動産の評価額や、残余財産を受け取る人が誰かによって軽減される場合があります。軽減措置の適用可否や具体的な税率は、登記の時点での法令や個々の事情によって変わるため、司法書士に事前確認することをおすすめします。信託契約にかかる費用の全体像は、家族信託の費用相場はいくら?愛知県内の目安と内訳でも解説していますので、契約時・契約中の費用とあわせて把握しておくと安心です。

残余財産の帰属先で変わる税金|贈与税・相続税の注意点

信託が終了したあと、残余財産を誰が受け取るかによって、課税される税金の種類が変わります。断定的な金額は個別の事情で大きく異なるため、ここでは考え方の整理にとどめます。

  • 委託者本人が帰属権利者になる場合:実質的に財産が元の持ち主に戻るだけなので、原則として課税関係は生じないとされています
  • 委託者の死亡によって信託が終了し、その相続人が残余財産を受け取る場合:相続税の課税対象になり得ます
  • 委託者以外の人が、死亡以外の理由で残余財産を受け取る場合(生前に信託を終了させて子に財産を渡すケースなど):贈与税の課税対象になり得ます

「信託を組んでいたから税金がかからない」という仕組みではなく、あくまで通常の財産移転と同じ考え方で課税の有無が判断される点に注意が必要です。特に、契約書で残余財産の帰属先を誰に指定しているかによって結果が変わるため、契約の時点で「誰にいくら渡すのか」を意識しておくことが、終了時の思わぬ税負担を避けるポイントになります。個別の税額計算や申告要否は、税理士にご確認ください。

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「途中でやめられるか不安」を解消するには|契約書に終了条件と帰属先を明記する

ここまで見てきたように、家族信託は「絶対にやめられない」制度ではありません。ただし、契約書に終了条件や残余財産の帰属先が明記されているかどうかで、いざというときの手続きのスムーズさが大きく変わります。「途中でやめられるか不安」という相談は実務でもよく聞かれますが、多くの場合、不安の正体は「やめられるかどうか」よりも「やめるときに何が起きるか分からない」ことにあります。

契約書に盛り込んでおきたい主なポイントは、次のとおりです。

  • どのような場合に信託を終了させるか(委託者の意思のみで足りるか、受託者の同意も必要か)
  • 残余財産を誰に、どのような割合で帰属させるか
  • 清算受託者を誰にするか(受託者と別に定めることも可能)
  • 不動産が含まれる場合の名義の戻し方

これらをあらかじめ契約書に盛り込んでおくことで、実際に終了させる場面になったときの手続きも、税務上の扱いも見通しが立てやすくなります。なお、判断能力が低下したあとに「途中でやめられるか」という論点は、任意後見契約にも共通する悩みです。任意後見契約の解除・辞任の手続きについては、任意後見契約は途中でやめられる?解除・辞任の手続きと注意点でも解説していますので、生前対策全体を見直す際にあわせてご確認ください。

当窓口の実務から
信託が終了すると、清算受託者は最終的に「信託の計算」(貸借対照表や損益計算書などの書類)を作成し、受益者や帰属権利者の承認を得る手続きが必要です。この承認を得ることで、清算受託者は原則としてその後の責任を免れます。逆にいうと、この承認手続きを省略してしまうと、後になって「本当に財産が漏れなく引き継がれたのか」を巡ってトラブルになりかねません。実務では、残余財産の一覧表を作成し、帰属権利者に書面で確認してもらってから引き渡す、という一手間が、後々の安心材料になります。

この記事が不要な人

以下に当てはまる方は、今すぐこの記事の内容を深追いする必要は高くありません。

  • まだ家族信託を検討し始めたばかりで、そもそも信託を組むかどうか迷っている方(まずは家族信託の基本を整理した記事をご覧ください)
  • 信託財産に不動産がなく預貯金のみで、かつ終了条件や帰属権利者が契約書に具体的に定められている方(契約書どおりに進めれば足りるケースがほとんどです)
  • すでに司法書士や弁護士に依頼して、解除・終了の手続きを進めている方

セルフチェック:契約書の終了条件、確認できていますか

以下の項目のうち、いくつ当てはまるか数えてみてください。

  • 信託契約書に、終了条件や残余財産の帰属先が具体的に書かれていない、または覚えていない
  • 委託者・受託者のどちらか(または双方)が「そろそろ終わらせたい」と感じている
  • 信託財産に不動産が含まれており、名義変更の手続きが必要になりそう
  • 残余財産を誰が受け取るかによって、贈与税や相続税がかかるかもしれないと不安に感じている
  • 信託を終了させたあとの財産管理をどうするか(法定後見や別の対策)まで決まっていない

該当数による目安

0〜1個: 今すぐ解除を急ぐ必要は高くありません。まずは信託契約書の終了条項を確認する程度で十分です。

2〜3個: 判断が必要な論点があります。契約書の内容と照らし合わせて、優先順位を整理してみてください。

4個以上: 専門家と一緒に整理した方が早い状況です。特に不動産や税金が絡む場合は、面談での相談をおすすめします。

よくある質問(FAQ)

家族信託は、委託者や受託者の一存で自由にやめられますか?

契約書の定め方によります。信託法上、委託者と受益者の合意があればいつでも終了させることができるとされていますが、多くの家族信託では委託者と受益者が同一人物であるケースが一般的です。一方で、契約書に「受託者の同意も必要」などの別段の定めがある場合は、その内容が優先されます。まずはご自身の契約書の終了条項を確認することが第一歩です。

受託者(子など)の判断だけで、信託を終わらせることはできますか?

原則として、受託者は信託の目的に沿って財産を管理する立場であり、単独の判断で信託を終了させることは想定されていません。委託者や受益者との合意、または契約書に定めた終了事由への該当が必要です。受託者の判断だけで終了できるとする条項は、実務上あまり一般的ではありません。

信託を終了したら、不動産の名義変更はすぐに終わりますか?

信託登記の抹消と所有権移転登記の申請自体は、書類が整えば比較的短期間で進められることが多いですが、清算受託者による債務の弁済など清算事務が終わっていることが前提になります。信託財産に借入れなどが残っている場合は、その分手続きが後ろ倒しになる可能性があります。

信託をやめたら、相続税対策は振り出しに戻りますか?

家族信託そのものは相続税を直接軽減する制度ではなく、資産凍結を防ぐための財産管理の仕組みです。信託を終了しても、生前贈与や遺言など他の対策が無効になるわけではありません。ただし、残余財産の帰属先によっては贈与税・相続税が発生しうるため、終了後の対策をどう組み直すかは、税理士も交えて検討することをおすすめします。

認知症などで委託者の判断能力が低下してから、信託をやめることはできますか?

委託者の判断能力が低下すると、当事者の意思による合意で終了させる手続きが難しくなる場合があります。この論点は、任意後見契約を途中でやめられるかという問題とも共通しています。判断能力低下後の解除の考え方は、本文でご紹介した任意後見契約に関する記事でも解説していますので、あわせてご確認ください。

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本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。登録免許税の税率や軽減措置の内容は2026年7月時点で確認できた一般的な情報であり、法改正により変更される場合があります。個別の税額計算や信託の設計は、税理士・弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。

この先どうするか、決めかねている方へ

当社は手続きそのものをお受けしていないため、「いまは何もしなくて大丈夫です」という結論をお伝えしても困りません。ご相談を無料にしているのは、そのためです。実際の手続きをご依頼になる場合は、提携先の専門家が有償で承ります。ご希望に応じて提携先をご紹介した際に紹介料を受け取る場合がありますが、紹介料の有無でご提案の内容は変えません。

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この記事を書いた人

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