任意後見契約は途中でやめられる?解除・辞任の手続きと注意点

半年前、甥に任意後見を頼む契約を公証役場で交わした。ところが最近、電話をしても素っ気ない返事ばかりで、正直、この人にこれからの生活を任せていいのか分からなくなってきた。契約書のファイルを引き出しの奥から取り出し、もう一度目を通す。「やめたい」と思っても、契約はもう動かせないものなのか、それとも今ならまだ引き返せるのか、調べ方すら見当がつかない。

✅ この記事の結論(30秒まとめ)

  • 任意後見契約は、任意後見監督人が選任される前であれば、公証人の認証を受けた書面によっていつでも解除できます(任意後見契約に関する法律第9条第1項)
  • 任意後見監督人の選任後(契約の効力発生後)は、「正当な事由」があり、家庭裁判所の許可を得て初めて解除できます(同条第2項)
  • 任意後見人の側から辞任したい場合も、効力発生後は本人からの解除と同様に家庭裁判所の許可が必要です
  • 解除・辞任が認められても、法務局への終了登記や、必要に応じて法定後見への切り替えなど、後始末の手続きが残ります
  • 「性格が合わない」という理由だけでは、効力発生後の正当な事由として認められにくい傾向があるとされています

「解除したい」と思ったときに本当に引っかかっているのは、書類の書き方そのものではなく、「今の関係をこれ以上こじらせずに、どう切り出せばいいのか分からない」ことかもしれません。加えて、契約を結んだ時期によって解除の難しさがまったく違うという事実を知らないまま、「もう後戻りできないのでは」と諦めてしまっている方も少なくありません。だから、この記事では、契約の前後で解除のルールがどう変わるのか、後見人側から辞めたい場合はどうすればいいのか、そして解除が認められた後に何が起きるのかまで、順を追って整理しました。

目次

任意後見契約は「途中でやめられる」のか?答えは契約の段階で変わる

結論から言えば、任意後見契約は途中でやめることができます。ただし、そのやりやすさは「今、契約がどの段階にあるか」によって大きく変わります。任意後見契約には、契約を結んだ直後の「まだ効力が発生していない期間」と、本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した後の「効力が発生している期間」の、大きく2つの段階があります。任意後見監督人とは、後見人が契約どおりに財産管理や身上監護を行っているかを家庭裁判所に代わってチェックする役割の人で、多くの場合、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれます。

この2つの段階で、解除のルールはまったく別物になります。効力発生前であれば、本人・後見人候補のどちらからでも、比較的自由に契約を終了させられます。一方、効力発生後は、本人保護の観点から、簡単にはやめられない仕組みになっています。まずは、ご自身の契約が今どちらの段階にあるのかを確認することが、最初の一歩です。そもそも任意後見契約がどのような手続きで結ばれ、どのようなタイミングで効力が発生するのかを振り返りたい方は、任意後見契約を公証役場で作る完全ガイドで契約の全体像を確認できます。

効力発生前の解除方法|公証人の認証を受けた書面でいつでもやめられる

任意後見監督人が選任される前であれば、本人・任意後見受任者(後見人候補)のどちらからでも、公証人の認証を受けた書面によって、いつでも契約を解除できます。理由を問われることはなく、「性格が合わなくなった」「状況が変わった」といった事情でも解除の妨げにはなりません。

方法は大きく2通りあります。ひとつは、本人と後見人候補の双方が話し合い、合意のうえで解除する方法です。この場合は、双方が署名した解除の書面に公証人の認証を受けます。もうひとつは、一方の意思だけで解除する方法です。この場合は、解除の意思を記した通知書に公証人の認証を受けたうえで、配達証明付きの内容証明郵便で相手に送付します。公証人の認証にかかる費用は目安として5,500円程度とされていますが、公証役場によって案内が異なる場合があるため、事前に確認しておくと安心です。

解除の手続きが完了したら、それで終わりではありません。任意後見契約の内容は法務局に登記されているため、解除した事実についても終了登記の申請が必要です。申請先は東京法務局のみで、登記手数料は原則無料とされています。契約時にどのような費用がかかったか、後見人への報酬の仕組みも含めて振り返りたい方は、任意後見制度の費用はいくら?もあわせてご確認ください。

効力発生後の解除方法|「正当な事由」と家庭裁判所の許可が必要

任意後見監督人が選任され、契約の効力がすでに発生している場合は、話が変わります。この段階での解除には、「正当な事由」があることに加えて、家庭裁判所の許可を得ることが必要です(任意後見契約に関する法律第9条第2項)。効力発生前のように、当事者の意思だけで自由に解除することはできません。

これは、本人がすでに判断能力の低下という不安定な状況にあるため、後見人が突然いなくなって保護が途切れることを防ぐための仕組みと考えられます。正当な事由として考えられる例には、後見人による財産の使い込みなど不正な行為、虐待、後見人自身の高齢や病気による対応困難、遠方への転居などが挙げられますが、実際に認められるかどうかは個別の事情によって家庭裁判所が判断します。単に「性格が合わない」「なんとなく気に入らない」といった主観的な理由だけでは、正当な事由として認められにくい傾向があるとされています。

身近に頼れる家族がいない場合の任意後見の使い方や、契約時に気をつけておきたい点については、任意後見制度、おひとりさまが利用するメリットと注意点でも解説しています。

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任意後見人の側から「辞めたい」場合はどうする?

ここまでは本人から解除する場合を中心に説明しましたが、任意後見人を引き受けた側から「もう続けられない」と感じるケースもあります。この場合の考え方も、基本的には本人からの解除と同じです。

効力発生前であれば、後見人候補は公証人の認証を受けた書面によって、いつでも一方的に契約を終了させることができます。効力発生後は、後見人の側からの辞任であっても、「正当な事由」があり、家庭裁判所の許可を得ることが必要です。後見人自身の高齢・病気、遠方への転居、本人との信頼関係が破綻したことなどが、正当な事由として考慮される例とされています。

なお、後見人が自ら望んで辞める「辞任」と、不正な行為や著しい不行跡などを理由に家庭裁判所が強制的に外す「解任」は、法律上別の手続きです。解任は本人や親族、任意後見監督人などの申立てにより家庭裁判所が審判を行うもので、後見人自身の意思による辞任とは性質が異なります。後見人候補をどのような基準で選び、契約書にどこまでの権限を書き込んでおくと安心かは、任意後見契約を公証役場で作る完全ガイドでも触れています。

解除・辞任が認められた後に必要な手続き

解除や辞任そのものが認められても、そこで手続きがすべて終わるわけではありません。任意後見契約の内容は法務局に登記されているため、契約が終了した事実についても終了登記の申請が必要です。この登記をしないままだと、契約が終了したことを第三者に主張できない状態が続くことになります。

さらに、本人の判断能力の低下がまだ続いている場合は、財産管理や身上監護を担う人がいなくなってしまうため、法定後見(成年後見)の開始を家庭裁判所に申し立てる必要が生じることがあります。申立てから後見人が選ばれるまでには一定の期間がかかるため、保護が途切れる期間が生じないよう、早めに動き始めることが大切です。まだ本人の判断能力に問題がなければ、新たな任意後見受任者を選び直して、あらためて公正証書で契約を結び直すという選択肢もあります。契約時の費用や、月額の後見人報酬の仕組みをもう一度確認したい方は、任意後見制度の費用はいくら?もご参照ください。

参考:解除・辞任の場面別早見表

これまでの内容を、解除・辞任のパターン別に整理すると、次のようになります。

パターン 効力発生前 効力発生後
本人からの解除 公証人の認証を受けた書面でいつでも可能 正当な事由+家庭裁判所の許可が必要
後見人からの辞任 公証人の認証を受けた書面でいつでも可能 正当な事由+家庭裁判所の許可が必要
第三者からの解任請求 (該当なし) 不正な行為・著しい不行跡など任務に適しない事由がある場合、家庭裁判所の審判により解任
【実務のポイント】
任意後見契約の解除は、任意後見監督人が選任されているかどうかで手続きがまったく異なります。監督人選任前であれば、公証人の認証を受けた書面によって、本人・後見人候補のどちらからでも比較的自由に解除できます。これに対し、監督人選任後(契約の効力発生後)は、本人保護の観点から「正当な事由」が必要とされ、家庭裁判所の許可を得て初めて解除できる仕組みになっています。これは後見人の側から辞任したい場合も同様で、一方的な都合による突然の辞任によって本人が保護されない状態に置かれることを防ぐための仕組みと考えられます。(公表されている法令・専門家の解説をもとに一般的な傾向として整理したものであり、個別の事案でどう判断されるかは家庭裁判所によります)
こんな場合は、今すぐ専門家に相談する必要はありません
まだ任意後見監督人が選任されておらず、後見人候補との話し合いで解決の糸口が見えている場合は、公証役場で解除の手続きを進めるだけで足りることがほとんどです。無理に専門家へ相談する必要はありません。まずは契約書を見直し、率直に話し合う時間を作ることから始めてください。

ご自身に当てはまるか セルフチェック

  • 後見人候補や本人との関係が悪化し、今後も改善が見込めないと感じている
  • すでに任意後見監督人が選任されている(契約の効力が発生している)
  • 後見人候補による財産の使い込みなど、不審な点への疑いがある
  • 本人の判断能力の低下がすでに進んでいる、または進み始めている
  • 解除した後、代わりに任せられる家族や専門家のあてがない
0〜1個該当: 上のチェックで該当が0〜1個だった方は、専門家に依頼しなくてもご自身で手続きを完了できる可能性が高い状況です。無理に相談される必要はありません。まずは公証役場での解除手続きの流れを確認してみてください。
2〜3個該当: 判断が必要な論点があります。生前対策診断で、ご自身の状況に合った対策の進め方を整理してみてください。
4個以上該当: 早めに専門家と一緒に整理した方が安心な状況です。30分の整理面談で、解除・辞任の進め方や、次の後見人の選び方を相談できます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 一度結んだ任意後見契約は、もう取り消せないのでしょうか?

いいえ、取り消せないわけではありません。任意後見監督人が選任される前であれば、公証人の認証を受けた書面によって、いつでも解除できます。監督人選任後は「正当な事由」と家庭裁判所の許可が必要になりますが、それでも解除する道が閉ざされているわけではありません。まずは、今の契約がどちらの段階にあるかを確認することから始めてください。

Q2. 後見人候補が信頼できなくなったら、どうすればいいですか?

まずは契約の効力が発生しているかどうかを確認してください。まだ発生していなければ、公証人の認証を受けた書面で比較的スムーズに解除できます。すでに発生している場合で、財産の使い込みなど不正な行為が疑われるときは、家庭裁判所へ解任を申し立てる方法もあります。感情的に切り出す前に、まずは事実関係を整理することをおすすめします。

Q3. 解除すると、誰かが困ることはありますか?

効力発生後に解除すると、本人の財産管理や身上監護を担う人が一時的にいなくなる可能性があります。判断能力の低下が続いている場合は、法定後見の申立てなど、保護が途切れないための手続きを並行して検討する必要があります。「困る人が出ないように」、解除を決めた時点で次の備えをあわせて考えておくことが大切です。

Q4. 「性格が合わない」という理由だけで解除できますか?

効力発生前であれば、理由を問わず解除できます。効力発生後は、性格の不一致だけでは正当な事由として認められにくい傾向があるとされています。財産管理や身上監護に具体的な支障が生じているかどうかが、判断のポイントになると考えられます。

Q5. 解除の手続きには、どのくらいの費用や期間がかかりますか?

効力発生前の解除は、公証人の認証費用が目安5,500円程度(2026年7月時点)とされ、書面の準備が整えば数週間程度で完了することが多いようです。効力発生後は家庭裁判所への申立てが必要になるため、審理の状況によって期間が変わります。正確な費用・期間は、公証役場や申立て先の家庭裁判所に直接確認することをおすすめします。

まとめ:任意後見契約は「今の状態」によって解除の難しさが変わる

任意後見契約は、途中でやめることができないわけではありません。ただし、効力発生前と発生後とでは、必要な手続きがまったく異なります。効力発生前であれば、公証人の認証を受けた書面によって比較的自由に解除できますが、効力発生後は「正当な事由」と家庭裁判所の許可が必要になります。これは後見人の側から辞任する場合も同様です。ご自身の契約が今どちらの段階にあるのかを確認し、解除・辞任が認められた後の手続きまで見通したうえで、次の一歩を考えてみてください。

後見人が辞任した後、新しい後見人への引き継ぎや、法定後見への切り替えには一定の期間がかかることがあります。この間の生活費や医療費をどう用意しておくかも、あわせて考えておきたい論点です。あらかじめ生活費相当を家族名義の口座に分けておく方法や、家族信託で財産管理の器を用意しておく方法のほか、受取人が請求すればすぐに受け取れる生命保険(指定代理請求特約付き)を、当面の資金確保の選択肢として検討する方もいます。それぞれ向き・不向きがあるため、単独で判断せず、ご自身の状況に合わせて比較することをおすすめします。生命保険を含めた組み合わせを検討したい場合は、生命保険と相続の完全ガイドで保険の役割を確認したうえで、専門家と相談しながら組み合わせを決めることをおすすめします。

※ご紹介にあたり、当社が提携代理店から紹介料を受け取る場合があります。本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税額計算や特定の保険商品の推奨を行うものではありません。税務・法的な判断が必要な場合は、税理士・弁護士など専門家にご確認ください。

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本記事は一般的な情報提供を目的として作成しており、個別の法的・税務判断を保証するものではありません。実際の解除・辞任の手続きにあたっては、契約時の公証役場、または申立て先の家庭裁判所、および弁護士・司法書士・行政書士など専門家にご確認ください。手数料等の金額は2026年7月時点の目安であり、変更される場合があります。監修:提携行政書士法人による監修体制。

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この記事を書いた人

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