12月の終わり、台所のテーブルに病院の領収書と薬局の袋がたまっている。今年はよく通院した。何か税金の控除があると聞いたけれど、どこから手をつければよいのか分からない。
医療費控除は、1年間に払った医療費が一定の額を超えたとき、税金が軽くなる仕組みです。この記事では、年金で暮らす方に向けて、対象になる費用、計算、セルフメディケーション税制との選択、申告の方法、領収書の扱いを整理します。2026年分(2027年に申告する分)を想定し、2026年10月時点で国税庁などの公表を確かめました。
この記事の結論
- 控除になるのは、1月から12月に払った医療費から、保険などで補てんされた分と、10万円(所得が200万円未満の人は所得の5%)を引いた額です。上限は200万円です。
- 65歳以上で年金だけの方は、年金収入が310万円未満なら、所得の5%のほうが小さくなります。医療費が10万円に届かなくても、使える場合があります。
- 領収書は申告書に付けず、5年間とっておきます。マイナポータル連携や「医療費のお知らせ」を使うと、入力が少なく済みます。
医療費控除とは|何が、いくら軽くなるのか
1月1日から12月31日までに実際に払った医療費が対象です。払った年で数えます。請求書が届いても、まだ払っていない分は、払った年の分になります。
計算の式は、次のとおりです(国税庁)。
控除額 = 払った医療費 − 補てんされる金額 − 10万円(または所得の5%)
補てんされる金額とは、健康保険の高額療養費や、加入している医療保険の給付金などです。それぞれ、対応する医療費の範囲まで引きます。引ききれずに余った分を、ほかの医療費から引くことはできません。
本人の分だけでなく、生計を一にする配偶者や親族の分もまとめられます。ただし、どの人の申告にまとめるかで戻る額が変わります。個別の見立ては、提携の税理士が確認します。
控除は「所得から差し引く」ものです。戻る税金は、控除額に税率をかけた分になります。年金から所得税が引かれていない人は、所得税は戻りません。この点は年金受給者の確定申告の記事にも書いています。住民税は、市の申告で医療費控除を受けられます(名古屋市)。
10万円か5%か|年金暮らしの計算例
引く額は、10万円と決まっているわけではありません。その年の「総所得金額等」が200万円未満の人は、10万円ではなく、総所得金額等の5%です(国税庁)。年金だけの方は、年金収入から公的年金等控除を引いた額が、おおむねこれにあたります。
65歳以上で年金だけの方(公的年金等控除は110万円)の例です。医療費が12万円、補てんがない場合で計算します。
| 年金収入 | 所得 | 引く額 | 控除額 |
|---|---|---|---|
| 150万円 | 40万円 | 2万円(5%) | 10万円 |
| 200万円 | 90万円 | 4万5千円(5%) | 7万5千円 |
| 250万円 | 140万円 | 7万円(5%) | 5万円 |
| 300万円 | 190万円 | 9万5千円(5%) | 2万5千円 |
| 330万円 | 220万円 | 10万円 | 2万円 |
(医療費12万円・補てんなし・ほかの所得なしの場合に、当社が計算した例です。公的年金等控除は国税庁の2026年分の表による)
年金収入が低いほど、引く額が小さくなります。所得が40万円の方なら、医療費が2万円を超えた分から対象です。年金のほかにパートの給与や家賃収入があれば、合わせた所得で見ます。
対象になる費用、ならない費用
| 費用 | 医療費控除 | ひとこと |
|---|---|---|
| 病院・診療所の診察、治療、入院 | 対象 | 入院の部屋代・食事代も対象です |
| 歯の治療、入れ歯 | 対象 | 治療に必要なものが対象です |
| 風邪薬など、治療のための市販薬 | 対象 | セルフメディケーション税制との選択があります(次の章) |
| ビタミン剤など、健康増進や予防の薬 | 対象外 | 治療のための薬ではないためです |
| 通院の電車・バス代 | 対象 | 領収書が出ないことが多いので、日付と区間と金額のメモを残します |
| 通院のタクシー代、自家用車のガソリン代・駐車場代 | 原則、対象外 | 電車やバスが使えない事情があるときは対象になる場合があります |
| 家族が付き添う費用 | 対象外 | 付添いの名目で払っても対象になりません |
| あん摩・マッサージ・はり・きゅう・柔道整復 | 治療なら対象 | 疲れを癒す、体調を整えるためのものは対象外です |
| 日常用のめがね | 対象外 | 手術後に医師の指示で使うものなど、対象になる場合もあります |
| 健康診断、人間ドック | 原則、対象外 | 重い病気が見つかり、そのまま治療した場合は対象になります |
| 介護保険のサービス、おむつ代 | 条件つきで対象 | 施設・居宅サービスの自己負担や、おむつ代の条件は別の記事で整理しています |
(国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」と同Q&Aをもとに作成。2026年10月時点)
介護施設の費用やおむつ代は条件が細かいため、介護費用・おむつ代は医療費控除の対象?の記事に分けました。
セルフメディケーション税制との選択
ドラッグストアで買う市販薬を対象にした、医療費控除の特例です。通常の医療費控除と、どちらか一方を選びます。
| 通常の医療費控除 | セルフメディケーション税制 | |
|---|---|---|
| 対象 | 病院や薬局での医療費全般 | 「スイッチOTC医薬品」(病院で出る薬から市販に転用された成分の薬)などの購入費 |
| 引く額 | 10万円(または所得の5%) | 1万2千円 |
| 控除額の上限 | 200万円 | 8万8千円 |
| 条件 | なし | 健康診断や予防接種など、一定の取組を、その年にしていること |
| 申告書に付ける明細書 | 医療費控除の明細書 | セルフメディケーション税制の明細書 |
(国税庁「No.1129 セルフメディケーション税制」をもとに作成。2026年10月時点)
両方は使えません。申告のあとで選び直すこともできません。通院が多い年は、通常の医療費控除の対象が広くなります。市販薬の購入が中心の年は、こちらも選択肢になります。
期限にも注意が必要です。現行の制度は、2026年12月31日までに買った分が対象です(厚生労働省)。2027年以降は、期限の扱いや対象の薬の範囲が見直される予定です。2026年分の申告には、今の制度を使います。
申告のやり方|e-Taxと書面
申告の期間は、例年2月16日ごろから3月15日ごろまでです。医療費控除のように、税金が戻る申告(還付申告)は、翌年の1月1日から5年間出せます。2026年分なら、2027年1月1日からです。
| 方法 | 流れ | 領収書 |
|---|---|---|
| e-Tax(マイナポータル連携) | マイナンバーカードで、健康保険などの医療費の情報を取り込み、申告書作成コーナーに自動で入力します。毎年2月9日以降に取り込めます。家族の分は、事前の代理人の設定と、ご家族のカードが必要です | 取り込んだ医療費の情報の分は、保管が不要になる場合があります。市販薬など、それ以外の分は5年間保管します |
| e-Tax(手で入力) | 領収書が多い方は、「医療費集計フォーム」に入力してから、申告書作成コーナーで読み込みます | 5年間保管します |
| 書面(印刷して提出) | 作成コーナーで作った申告書を印刷し、「医療費控除の明細書」を付けて、税務署に出します。健康保険の「医療費のお知らせ」を付けると、明細書の記入が少なくなります | 5年間保管します(医療費のお知らせの分を除く) |
| 市民税・県民税の申告 | 所得税の申告をしない方が、住民税の軽減だけを受けたいとき。名古屋市なら、お住まいの区を担当する市税事務所に出します | 5年間保管します |
(国税庁「No.1119 医療費控除に関する手続について」「医療費控除を受ける方へ」、名古屋市の案内をもとに作成。2026年10月時点)
「医療費のお知らせ」は、国保や後期高齢者医療などから届く通知です。氏名、受診した年月、病院や薬局の名称、自己負担額など6つの項目がそろっていれば、申告書に付けて使えます。
領収書の扱い
- 領収書は、申告書に付けて出す必要はありません。申告の期限から5年間、自宅で保管します。税務署から見せるよう求められることがあります。
- 医療費のお知らせの6項目がそろっている分は、領収書の保管が要りません。
- マイナポータルの画面を印刷した紙は、領収書の代わりにはなりません。領収書をとっておきます。
- めがねの処方せんやおむつ使用証明書など、医師の書類がいる費用は、その書類も一緒に保管します。
今日できる一歩
1. 今年の領収書を、1つの封筒にまとめる。家族の分も、同じ封筒で構いません。薬局の袋のレシートも入れます。
2. 通院の交通費のメモをつくる。日付、行き先、電車やバスの区間と金額を、手帳の1ページに書き出します。
3. マイナポータルとの連携の準備をする。マイナンバーカードの暗証番号を確かめておきます。取り込みは、2027年の2月9日以降です。
相談現場から
よく伺うのは「年金暮らしで税金が少ないから、医療費控除は関係ない」と思っている場面です。所得税が引かれていなければ、所得税は戻りませんが、住民税が軽くなる場合があります。また、10万円に届かなくても、所得が低ければ、5%の基準で対象になることがあります。もう一つ多いのは、領収書をまとめて捨ててしまうケースです。申告しない年でも、5年間は手元に残しておくと、あとで見直せます。
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参考にした公的情報
- 国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
- 国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」
- 国税庁「No.1119 医療費控除に関する手続について」
- 国税庁「No.1129 セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)」
- 国税庁「医療費控除を受ける方へ(確定申告特集)」
- 名古屋おしえてダイヤル「医療費控除の手続き」(名古屋市)
※本記事は2026年10月時点の一般的な情報の整理です。控除の対象になるか、いくら戻るかは、収入や家族の状況、医療費の内容で変わります。個別の判断は、税務署または税理士にご確認ください。セルフメディケーション税制の2027年以降の取扱いは、厚生労働省・国税庁の発表をご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
