家族信託の税務|贈与税・相続税はどう扱われる?信託設定時・信託期間中・終了時で整理

「家族信託を組むと、贈与税がかかるんですよね?」ご相談にいらしたご夫婦の奥様が、少し不安そうな表情で尋ねられました。ご主人名義の自宅とアパートを、将来判断能力が低下したときに備えて子に信託しておきたい、というご相談でした。契約の内容や受託者の決め方までは順調に整理が進んだのですが、最後の最後で「結局、税金はどうなるんですか」というところで話が止まってしまいました。ネットで調べると「信託は贈与税の対象になる」と書かれたページもあれば、「委託者と受益者が同じなら贈与税はかからない」と書かれたページもあり、どちらが正しいのか分からなくなってしまったとのことでした。

✅ この記事の結論(30秒まとめ)

  • 家族信託の税金は、①信託を設定した時点 ②信託期間中 ③信託が終了した時点の3つのタイミングに分けて整理するのが基本です
  • ①設定時は、委託者と受益者が同一人物の「自益信託」であれば、実質的な財産の移動がないため贈与税は原則かかりません。委託者と受益者が別人の「他益信託」は受益者に贈与税が課税されます
  • ②期間中は、信託財産から生じる家賃などの収益に対して受益者に所得税が課税されます(信託そのものに課税されるわけではありません)
  • ③終了時は、残余財産を誰が受け取るかによって贈与税・相続税のいずれかが課税され得ます
  • 税務は個別性が非常に高い分野です。本記事は一般的な整理にとどまるため、実際の税額計算・判断は必ず税理士にご相談ください

「贈与税がかかるらしい」「いや、かからないと聞いた」——こうした情報の食い違いに戸惑う背景には、家族信託の税金が契約書を結んだ瞬間だけの話ではなく、設定時・期間中・終了時という時間軸によって課税関係が変わるという事情があります。あるタイミングだけを見た情報と、別のタイミングを見た情報が、別々に発信されているために「言っていることが違う」ように見えてしまうのです。だから、この記事では、家族信託の税金を3つのタイミングに分けて整理したうえで、自益信託・他益信託の違いや、受益者連続型信託の相続税評価の考え方、家族信託にかかる費用の目安まで、実務目線でまとめます。

目次

家族信託の税金は「3つのタイミング」で整理する

家族信託の課税関係は、次の3つのタイミングに分けて考えると整理しやすくなります。

家族信託の課税関係・3つのタイミング

1

信託設定時

自益信託なら原則贈与税なし。他益信託は受益者に贈与税

2

信託期間中

賃料等の信託収益に受益者が所得税を負担

3

信託終了時

残余財産の帰属先により贈与税 or 相続税

それぞれの考え方を、次の章から順に見ていきます。家族信託全体の仕組みや、資産凍結を防ぐ効果、任意後見・成年後見との違いについては家族信託で親の”資産凍結”を防ぐ|アパート・自社株の信託と任意後見・成年後見との違いで整理していますので、あわせてご覧ください。

信託を設定した時点の課税|自益信託なら贈与税は原則かからない

国税庁のタックスアンサー「No.4427 新たに信託の設定等を行った場合」によれば、信託の設定にあたって適正な対価を負担せずに受益権を取得したときは、贈与税が課税されるのが原則とされています(国税庁 No.4427 新たに信託の設定等を行った場合)。ポイントは「誰が受益権を取得するか」です。

家族信託の多くは、財産を持つ親(委託者)が、自分自身を受益者として設定する「自益信託」の形をとります。この場合、財産を管理する名義は子(受託者)に移りますが、その財産から生じる利益を受け取る権利(受益権)は委託者本人が持ち続けるため、実質的な財産的価値の移動が生じていないと整理されます。そのため、相続税法9条の2などの規定に照らしても、信託を設定した時点で贈与税が課税されることは、原則としてありません。一方、委託者とは別の人物(たとえば子)を最初から受益者に指定する「他益信託」では、受益権という経済的利益が他者に移転したとみなされ、その受益者に贈与税が課税されます。

区分 委託者と受益者の関係 設定時の贈与税 実務での位置づけ
自益信託 同一人物(委託者=受益者) 原則なし 家族信託の大半はこちら。認知症対策として最も一般的な形
他益信託 別人物(委託者≠受益者) 受益者に課税 生前贈与に近い効果。意図的な資産移転として設計されるケース

なお、贈与税とは別に、信託財産に不動産が含まれる場合は信託設定登記の登録免許税がかかります。これは贈与税とは性質の異なる実費で、自益信託であってもかかる点に注意が必要です。費用面の詳細は後述します。

信託期間中の課税|受益者に所得税、信託そのものには課税されない

信託期間中、信託財産(たとえば賃貸アパート)から家賃収入などの利益が生まれた場合、その利益は受益者の所得として扱われ、受益者本人が確定申告を行い所得税を負担します。これは「受益者等課税信託」と呼ばれる考え方(所得税法13条)で、税務上は信託を通り抜けて、受益者が信託財産を直接保有しているのと同じように扱われるのが原則です。受託者(子など)が名義人であっても、受託者自身に法人税や所得税が課されるわけではありません。

信託財産にアパートなどの賃貸不動産が含まれる場合の実務上の注意点は、家族信託でアパート経営を”止めない”|賃貸オーナーの資産凍結対策でも触れていますので、あわせてご確認ください。なお、信託財産に不動産が含まれる場合の固定資産税は、名義人である受託者宛てに納税通知書が届きますが、実際の負担は信託財産(実質的には受益者)から支払うのが一般的です。

信託が終了した時点の課税|残余財産の帰属先で贈与税・相続税が分かれる

信託が終了すると、残った信託財産(残余財産)は、契約であらかじめ定めた「帰属権利者」に引き継がれます。この段階でどのような税金がかかるかは、残余財産を誰が受け取るかによって次のように整理できます。

  • 帰属権利者が、それまでの受益者本人の場合:財産の実質的な帰属先が変わらないため、原則として新たな課税関係は生じません
  • 委託者の死亡によって信託が終了し、相続人が残余財産を受け取る場合:相続税の課税対象となり得ます
  • 存命中の受益者以外の人が、無償で残余財産を受け取る場合:贈与税の課税対象となり得ます

残余財産に不動産が含まれる場合は、信託登記の抹消と所有権移転登記が必要になり、登録免許税や(場合によっては)不動産取得税もあわせて発生します。信託の終了事由や清算手続きの流れについては、家族信託は途中でやめられる?解除・信託終了の手続きと注意点で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

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受益者連続型信託(後継ぎ遺贈型)の相続税評価の考え方

配偶者が生きている間は配偶者を受益者とし、配偶者が亡くなったあとは子を受益者とする——このように、受益者が亡くなるたびに次の受益者へ受益権が引き継がれていく設計を「受益者連続型信託」(後継ぎ遺贈型受益者連続信託)と呼びます。遺言では実現しにくい「配偶者の次は子に」といった二次相続以降の資産承継の道筋を、あらかじめ決めておける点が特徴です。

受益者連続型信託については、相続税法9条の3に特例規定が置かれています(国税庁 相続税法基本通達 第9条の3(受益者連続型信託の特例)関係)。基本的な考え方として、先の受益者が亡くなり、次の受益者に受益権が移転するタイミングごとに、その時の受益者に相続税が課税され得ます。つまり、一次相続だけでなく、二次相続・三次相続にあたる受益権の移転でも、その都度相続税の申告が必要になる可能性があるということです。「信託にしておけば、その先の相続税がかからなくなる」というわけではない点は、誤解が多いポイントです。評価の考え方についても、通常の相続財産と同様の評価ルールが基本となり、信託ならではの評価減があるわけではありません。

遺言は一次相続(自分の財産を誰に渡すか)までしか指定できませんが、受益者連続型信託は二次相続以降の承継先まで指定できる点が大きな違いです。ただし税務上のメリットがあるわけではなく、承継の道筋を決められる代わりに、移転のたびに相続税の課税対象になり得るという前提で検討する必要があります。また、任意後見・成年後見は財産の承継先を指定する制度ではないため、そもそも二次相続以降の資産承継とは目的が異なります。この違いは家族信託で親の”資産凍結”を防ぐ|アパート・自社株の信託と任意後見・成年後見との違いでも整理していますので、あわせてご確認ください。

家族信託にかかる費用の目安|契約書作成・登記費用など

家族信託そのものは、税金の話とは別に、契約を結ぶための初期費用がかかります。一般的には、専門家へのコンサルティング報酬、信託契約書を公正証書にする費用、不動産が含まれる場合は登記費用(登録免許税)が主な内訳です。初期費用の目安は信託財産の規模や依頼先によって幅があるため、断定的な金額はここでは示しません。愛知県内での目安と内訳は家族信託の費用相場はいくら?愛知県内の目安と内訳、デメリットとあわせた判断基準は家族信託のデメリットと費用|後悔しないための判断基準を中立の立場で解説で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。これらはいずれも契約時・登記時にかかる実費であり、贈与税や相続税とは別枠の費用である点にご注意ください。

当窓口の実務から
家族信託のご相談で、実際に一番多くいただく質問が「結局、税金はいくらかかるのか」というものです。ただし、個別の税額計算や具体的な信託設計における税務上の判断は、行政書士法人の業務範囲を超える税理士の専門領域です。当窓口では、信託契約の設計や家族間の合意形成をサポートしつつ、税務判断が必要な場面では提携先の税理士におつなぎする、という役割分担で対応しています。「まず全体像を整理してから、必要な範囲だけ税理士に相談したい」という方ほど、早い段階でのご相談が向いています。

家族信託が不要な人もいます

家族信託は万能な制度ではありません。次のような場合は、家族信託を組まなくても、より簡単な方法で目的を達成できることがあります。

  • 財産のほとんどが預貯金で、金額もそれほど大きくない
  • 目的が「認知症になったときの財産管理」に限られており、資産凍結対策以上のこと(不動産の積極的な活用や事業承継など)は考えていない
  • 信頼して財産管理を任せられる家族が身近にいない

このような場合は、任意後見制度や、一時払い終身保険・生前贈与の組み合わせなど、より低コストな方法で目的を達成できる可能性があります。家族信託と任意後見・成年後見の違いは家族信託で親の”資産凍結”を防ぐで整理していますので、あわせてご確認ください。

セルフチェック:税務面で検討すべき状況か

以下の項目のうち、いくつ当てはまるか数えてみてください。

  • 家族信託を検討しているが、税金面がよく分からず不安に感じている
  • 信託財産に賃貸不動産や自社株など、期間中に収益が生じる資産が含まれる
  • 「配偶者の次は子に」など、二次相続以降の承継先まで決めておきたい
  • すでに信託契約書の作成を進めており、税務面の最終確認をしたい
  • 個別の税額計算や具体的な信託設計について、税理士に相談したいと考えている

該当数による目安

0〜1個: まずは本記事の整理で全体像をつかむ程度で十分です。無理に相談される必要はありません。

2〜3個: 判断が必要な論点があります。ご自身の資産状況に照らして、下記のセルフチェックとあわせて優先順位を整理してみてください。

4個以上: 早い段階で税理士・専門家を交えて具体的な検討に進むことをおすすめします。契約設計と税務判断は分けて考える必要があるため、面談での相談が近道です。

⚠️ 税務の個別判断は、必ず税理士へ

この記事で整理した内容は、家族信託の税金に関する一般的な考え方です。実際の贈与税・相続税の要否や金額は、信託財産の内容・評価額・家族構成・過去の贈与の有無などによって個別に異なります。具体的な税額計算や信託設計上の税務判断は、必ず税理士にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

家族信託を組むと贈与税がかかるって聞いたけど本当ですか?

委託者と受益者の関係によります。委託者自身を受益者とする「自益信託」であれば、原則として贈与税はかかりません。一方、委託者とは別の人物を受益者に指定する「他益信託」では、受益者に贈与税が課税されます。家族信託の多くは自益信託の形をとりますが、契約内容によって異なるため、ご自身の契約がどちらにあたるかを確認することが大切です。

家族信託をすれば相続税は安くなりますか?

家族信託そのものに、直接的な節税効果があるわけではありません。家族信託は、判断能力が低下したあともアパート経営や資産の管理・処分を止めずに続けられるようにする「資産管理の器」であり、相続税を軽減する制度ではない点にご注意ください。相続税対策は、生前贈与や非課税枠の活用など、別の制度と組み合わせて検討する必要があります。

信託期間中、確定申告は必要ですか?

信託財産から家賃収入などの利益が生じている場合は、受益者本人が確定申告を行う必要があります。信託財産に不動産が含まれる場合は、通常の確定申告書に加えて「信託から生じる不動産所得」に関する明細書の添付が必要になるケースもあります。具体的な申告手続きは税理士にご確認ください。

家族信託を組む際、税理士に相談する必要はありますか?

信託財産に賃貸不動産や自社株など、期間中に収益が生じる資産が含まれる場合や、受益者連続型信託のように複数世代にわたる承継を検討する場合は、税理士への相談をおすすめします。信託契約の設計は司法書士・弁護士、税務判断は税理士というように、論点ごとに専門家の役割が分かれている点を踏まえて進めると、後戻りが少なくなります。

受益者連続型信託は誰でも使えますか?

制度上は多くのご家庭で利用できますが、実際に向いているのは「配偶者の次は子に」というように、二次相続以降の承継先まで具体的に決めておきたい事情がある方です。単に判断能力低下への備えが目的であれば、通常の家族信託や任意後見で足りるケースも多く、必要以上に複雑な設計にしないことも大切です。判断に迷う場合は専門家にご相談ください。

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本記事は司法書士 今井裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。信託契約の設計や登記に関するご相談は、司法書士・弁護士などの専門家にご確認ください。個別の税額計算や信託設計における税務上の判断は、必ず税理士にご相談ください。

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この記事を書いた人

「いまから相続」は、株式会社アシストプラスが運営する、相続の手続き・生前対策・終活に関する情報サイトです。愛知県内の相続相談先の選び方や費用相場、金融機関ごとの手続き、生前対策や終活の進め方など、地域の実情に即した実践的な情報をお届けしています。 なお、運営会社である株式会社アシストプラスには、「あいち相続あんしんセンター」代表を務める司法書士 今井裕司が一部出資しております。この関係性を踏まえ、記事内でのご紹介・ご案内は公平性を保つよう努めています。

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