死亡保険金は遺産分割の対象になる?|協議書に書かない理由と、持ち戻しになる場合

遺産分割の話し合いの最中に、「お兄さんは保険金を受け取っているのだから、その分は差し引くべきだ」と言われた。あるいは自分が受け取った側で、「これも遺産に入れて分けるのか」と迷っている。どちらの立場でも、話が止まってしまう論点です。

結論から書きます。死亡保険金は、原則として遺産分割の対象になりません。だから遺産分割協議書にも書きません。ただし「絶対に」ではなく、最高裁が例外の枠組みを示しています。どこまでが原則で、どこからが例外かを、判例の数字とあわせて整理します。

目次

先に結論:死亡保険金は「受取人のもの」。分割の対象にはなりません

📜

死亡保険金(受取人=長男、と証券に書いてある)

🛡️

原則(ほとんどの相続)

分割の対象外

受取人ひとりの固有の財産。協議書に書かない。他の相続人に分ける義務はない。

⚖️

例外(不公平が著しいとき)

持ち戻し

民法903条の類推適用。金額・遺産に対する比率・同居や介護の事情を総合して判断。

最高裁平成16年10月29日決定が示した枠組み(2026年9月時点)。例外にあたるかは事案ごとの判断です。

原則が9割、例外は本当に例外です。実務では、遺産分割協議書に保険金の行を作らず、預貯金・不動産・有価証券だけを分けます。そのうえで、金額が遺産総額に匹敵するような場合だけ、例外の議論に入ります。

なぜ「受取人のもの」になるのか

死亡保険金を請求する権利は、亡くなった方が持っていた財産が相続で移ってくるものではありません。保険契約によって、受取人に指定された人が自分の権利として取得します。亡くなった方の財産だったことが一度もないので、遺産の中に入れようがない、という理屈です。

ここから、実務上の答えが3つ出ます。①遺産分割協議の対象にならない。②他の相続人の同意がなくても、受取人ひとりで請求できる。③受取人以外の相続人が「自分にも分けろ」と請求する法律上の根拠は、原則としてない。話し合いで揉めるのは、この3つが知られていないからです。

遺産分割協議書に保険金を書かない

保険金は協議書に書きません。書いてしまうと、次のような不都合が起きます。

  • 遺産ではないものを遺産として分けた形になり、金融機関や法務局から内容の説明を求められることがある
  • 受取人が他の相続人に保険金の一部を渡す約束を書くと、その部分が贈与と受け取られる可能性が出てくる
  • あとから「あの記載は何だったのか」と蒸し返しの材料になる

どうしても事実として残したい場合は、分割の対象としてではなく、確認事項として1行入れます。たとえば「相続人らは、被相続人を被保険者とする生命保険金が受取人である甲の固有財産であり、本協議の対象に含まれないことを確認する」。分けるのではなく、争わないことを書く、という発想です。協議書そのものの書き方は遺産分割協議書の書き方とひな形にまとめています。

例外:不公平が著しいときは持ち戻しになる

最高裁平成16年10月29日決定は、死亡保険金は原則として特別受益にあたらないとしたうえで、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情」があるときは、903条を類推適用して持ち戻しの対象になる、としました。

判断の材料として挙げられているのは、保険金の額、それが遺産の総額に占める比率、受取人と亡くなった方の関係(同居していたか、介護をしていたか)、各相続人の生活の実情などです。「金額が大きいから即アウト」ではなく、事情の総合判断になります。

実際の裁判例で、比率がどう効いたか

裁判例保険金/遺産総額結論
最高裁 平成16年10月29日決定約574万円/約5,958万円(約1割)持ち戻し否定
東京高裁 平成17年10月27日決定約1億129万円/約1億134万円(ほぼ同額)持ち戻し肯定
名古屋高裁 平成18年3月27日決定約5,154万円/約8,423万円(約6割)持ち戻し肯定
広島高裁 令和4年2月25日決定2,100万円/遺産総額を大きく上回る持ち戻し否定
2026年9月時点で公表されている裁判例より。比率は目安で、これを超えたら必ず持ち戻し、という基準ではありません。

広島高裁の事案は、保険金が遺産総額を大きく上回っていたにもかかわらず持ち戻しを否定しました。受取人が長く同居して身の回りの世話をしていたなどの事情が考慮されています。比率だけで結論は出ません。逆に言えば、「保険金のほうが遺産より多い」状態は、話し合いが長引く典型です。

今日の一歩:次の話し合いの席に、数字を2つ持っていく

そろえるのは2つです。①保険会社から届いた支払明細書(受け取った額が分かるもの) ②遺産の一覧(各金融機関の残高証明書と、不動産があれば固定資産評価証明書。評価証明書は物件のある市区町村の窓口、東京23区は都税事務所で取れます)。この2つがそろえば、上の表と同じ「保険金÷遺産総額」の比率が自分のケースで出せます。議論の入口はこの数字です。

席では順番を固定してください。①いくら受け取ったかを先に自分から言う ②保険金は受取人固有の財産なので協議書には書かない、と伝える ③そのうえで、遺産の分け方は遺産だけを並べて話す。金額を伏せたまま「協議書には書きません」とだけ言うと、隠していると受け取られます。開示を求められたら支払明細書の写しを見せれば足ります。保険会社が他の相続人に金額を教えることはありません。

まとまらないときの次の一手は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所への遺産分割調停の申立てです(相続人全員の合意で別の家庭裁判所にすることもできます)。必要なのは申立書、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍、相続人全員の戸籍、遺産目録、収入印紙1,200円分(被相続人1人につき)と連絡用の郵便切手です。調停の対象はあくまで遺産なので保険金そのものは分割の対象になりませんが、持ち戻しの主張はこの手続きの中で扱われます。

期限の目安:話し合いがまとまらなくても相続税の申告・納付の期限(10か月)は動きません。期限までに分割が決まらない場合は、いったん法定相続分で申告しておく取り扱いがあります(配偶者の税額軽減などを後から使うには別途手続きが要ります。税理士にご確認ください)。不動産があれば相続登記は3年以内です。

受取人が「相続人」とだけ書かれている場合

証券の受取人欄に個人名ではなく「被保険者の相続人」と書かれている契約があります。この場合も保険金は相続人それぞれの固有の財産で、遺産分割の対象にはなりません。ただし取り分の割合が違います。最高裁平成6年7月18日判決は、特段の事情がない限り、各相続人は法定相続分の割合で権利を取得すると判断しました。配偶者と子2人なら、2分の1・4分の1・4分の1です。

紛らわしいのが、受取人に指定した人が先に亡くなっていたケースです。こちらは法定相続分ではなく均等割になります。整理は受取人が先に亡くなっていた保険金は誰のものにまとめました。

相続放棄をしても保険金は受け取れる

保険金は遺産ではないので、相続放棄をした人でも、受取人に指定されていれば受け取れます。借金が多くて放棄する場合でも、保険金だけは手元に残せるということです。

ただし税金の扱いは別で、放棄をすると相続人ではなくなるため、死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は使えません。放棄と保険金の関係は相続放棄時における生命保険の非課税枠で詳しく整理しています。

分割の対象外でも、相続税はかかる

民法の話と税金の話は別です。死亡保険金は相続税法上「みなし相続財産」として課税の対象になります。相続人が受け取った分については、500万円×法定相続人の数までが非課税。この非課税限度額を計算するときの法定相続人の数には、相続放棄をした人も含めて数えます(国税庁タックスアンサーNo.4114、2026年9月時点)。一方、相続人以外の人が受け取った保険金には非課税の適用がありません。

「分けなくていい」と「申告しなくていい」は別物です。非課税枠の計算は死亡保険金にかかる相続税の非課税枠にまとめてあります。税額の計算そのものは税理士にご確認ください。

それでも「分けたい」と思ったときの方法

法律上は分ける義務がなくても、家族関係を優先して分けたいという方はいます。その場合、保険金をそのまま現金で渡すと贈与とみなされる可能性があります。避けるなら、遺産分割の中で調整する形にします。たとえば実家を受取人が取得し、その代わりに他の相続人へ代償金を払う。代償金の原資が保険金であること自体は問題になりません。

ポイントは協議書の書き方で、「遺産を取得した代償として」の一文があるかどうかで扱いが変わります。条項例は代償分割の遺産分割協議書の書き方に載せています。金額が大きいときは、実行前に税理士へ確認してください。

相談現場から|相談員メモ

愛知県内で累計約500件の相続のご相談をお受けしてきました。保険金でもめる場面は、金額そのものよりも「知らされていなかった」ことが引き金になることが多いです。受取人は3〜5人程度まで指定でき、割合も決められる会社が多いのですが(会社・商品により異なります)、実際の証券は1人指定のままがほとんど。分けるつもりがないなら、その理由を生前に一言伝えておくだけで、後の話し合いはずいぶん変わります。

まとめ

死亡保険金は受取人固有の財産で、原則として遺産分割の対象外。協議書には書かない。例外は、金額と遺産に対する比率、同居や介護の事情を総合して「著しく不公平」と評価される場合だけ。相続放棄をしても受け取れるが、非課税枠は使えない。そして分割の対象外でも相続税はかかる。この5つを押さえておけば、話し合いの席で立ち止まらずに済みます。

保険金の扱いで話し合いが止まっている方へ
「持ち戻しの例外にあたるのか」「協議書にどう書くか」は、保険金の額と遺産の中身を並べてみないと判断できません。30分の無料相談では、証券と財産の一覧をもとに、争点になりうる箇所と協議書の書き方の方向性を持ち帰っていただけます。当社も保険募集を行う立場です。比較の結果「今は何もしなくてよい」が答えになることもあります。愛知県内は対面、それ以外はオンラインです。
お電話 052-766-5650(相談中は折り返しになります)

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※本記事は2026年9月時点の法令・裁判例・国税庁の公表資料をもとにした一般的な情報の整理です。持ち戻しにあたるかどうかは個別の事情によって結論が変わります。税額の計算や申告の要否は税理士、争いになっている場合の見通しは弁護士にご確認ください。

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この記事を書いた人

「いまから相続」は、株式会社アシストプラスが運営する、相続の手続き・生前対策・終活に関する情報サイトです。愛知県内の相続相談先の選び方や費用相場、金融機関ごとの手続き、生前対策や終活の進め方など、地域の実情に即した実践的な情報をお届けしています。 なお、運営会社である株式会社アシストプラスには、「あいち相続あんしんセンター」代表を務める司法書士 今井裕司が一部出資しております。この関係性を踏まえ、記事内でのご紹介・ご案内は公平性を保つよう努めています。

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