保険会社から連絡があって、通帳を記帳したら、見慣れない桁の数字が入っていた。葬儀が終わったばかりで、まだ何も落ち着いていない。手をつけていいのか、置いておくべきなのか、判断がつかない。
このお金には、先に行き先が決まっている部分と、そうでない部分があります。混ぜたまま「とりあえず定期に」としてしまうと、あとで動かしにくくなります。順番に切り分けます。急いで決めなければならないことは、実はそれほど多くありません。
先に結論:行き先の決まっているお金を分けてから、残りを考える
🧮
手順1
申告が要るか
基礎控除と非課税枠にあてはめて、そもそも相続税がかかるかを確かめる
🗃️
手順2
納税分を除ける
かかるなら、納税に回す分を別口座に移して手をつけない
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手順3
立替を精算する
葬儀費用を立て替えた人に返す。領収書をまとめて保管
相続税の申告と納付の期限
10か月
相続の開始があったことを知った日の翌日から
相続税法27条・国税庁タックスアンサー(2026年9月時点)。準確定申告が必要な場合は4か月以内です。
この3つを終えて残った分が、はじめて「自由に使えるお金」です。多くの方は、この切り分けをする前に金融機関から運用の提案を受けます。順番が逆になると判断を誤ります。
手順1|そもそも相続税の申告が要るかを確かめる
保険金を受け取ったからといって、必ず相続税がかかるわけではありません。まず、財産の合計が基礎控除を超えるかどうかです。
- 基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数(国税庁タックスアンサーNo.4152)
- 死亡保険金の非課税限度額=500万円×法定相続人の数(同No.4114)。相続人が受け取った保険金から、この額を差し引いた残りを財産に足します
- 非課税限度額を計算するときの法定相続人の数には、相続放棄をした人も含めて数えます。ただし相続人以外の人が受け取った保険金に非課税の適用はありません
たとえば法定相続人が配偶者と子2人の3人なら、基礎控除は4,800万円、保険金の非課税枠は1,500万円。保険金2,000万円を受け取ったなら、超える500万円だけが課税対象の財産に加わります。この500万円と、預貯金・自宅・有価証券などを足した合計が4,800万円を超えるかどうかが分かれ目です。
注意点が2つあります。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って税額がゼロになる場合でも、申告そのものは必要です。また、この計算はあくまで目安で、不動産の評価額によって結論は変わります。合計が基礎控除に近いと感じたら、早い段階で税理士に見てもらってください。計算の詳しい手順は死亡保険金にかかる相続税の非課税枠にまとめています。
手順2|納税に回す分は、別にして手をつけない
相続税の申告と納付の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月です。納付は現金で一度に、が原則。分割で納める延納や、物で納める物納には要件と手続きがあり、その場で選べるものではありません。
そもそも保険金が相続対策として使われる一番の理由が、この納税資金です。不動産が多くて現金が少ない家庭では、保険金がなければ自宅を売ることになりかねません。せっかく用意された資金を先に使ってしまうと、本来の目的が果たせなくなります。
実務的には、概算でよいので税理士に税額の見込みを出してもらい、その金額を普通預金のまま別の口座に置いておきます。定期預金にしてしまうと、途中で動かすときに手間がかかります。増やす必要のないお金です。
あわせて、亡くなった方に事業所得や不動産所得があった場合は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に準確定申告が必要です。こちらの期限のほうが先に来ます。手続き全体の順番は相続でやることチェックリストで確認できます。
手順3|葬儀費用の立替を精算する
口座が凍結されている間、葬儀費用を誰かが立て替えていることがほとんどです。保険金は受取人がすぐ使えるお金なので、ここで精算します。同時に、領収書を1か所にまとめてください。葬式費用は相続財産から差し引けるためです。
| 差し引けるもの | 差し引けないもの |
|---|---|
| 通夜・葬儀・火葬・埋葬・納骨にかかった費用 | 香典返しの費用 |
| 遺体や遺骨の運搬にかかった費用 | 墓石・墓地の購入費、墓地の借入料 |
| 読経料などお寺へのお礼 | 初七日など法要の費用 |
お寺へのお礼のように領収書が出ないものは、日付・相手・金額・目的をメモに残しておけば足りることが多いです。あとから思い出すのは難しいので、この段階で書いておいてください。
他の相続人と分ける義務はありません
「保険金も遺産だから分けてほしい」と言われることがあります。死亡保険金は受取人固有の財産で、原則として遺産分割の対象になりません。遺産分割協議書にも書きません。相続放棄をした人でも、受取人に指定されていれば受け取れます。
例外は、保険金の額が遺産総額に匹敵するなど、不公平が著しいと評価される場合だけです。判断の枠組みと、実際の裁判例で比率がどう効いたかは死亡保険金は遺産分割の対象になる?にまとめました。家族関係を優先して分けたい場合も、そのまま現金で渡すと贈与の問題が出るので、進め方は先に確認してください。
近いうちに「まとまったお金の置き場所」の話が来ます
大きな入金があると、銀行や証券会社から連絡が入ることがあります。相続手続きで窓口に行ったときに、その場で提案されることもあります。悪い話とは限りませんが、受け取った直後は判断の材料が揃っていません。
提案を受ける前に、次の3つだけ決めておくと話が早くなります。
- いくらが自由に使えるお金なのか(納税分と立替精算を引いた残り)
- そのお金を、いつ、何に使う予定があるのか(当面の生活費か、当てのない資金か)
- その場で結論を出さないと最初に決めておく。提案書を持ち帰って比べる
判断の物差しは「入らなくていい保険」の見分け方と、銀行窓口で勧められやすい商品を扱った銀行で勧められた一時払い終身保険は入るべき?に整理してあります。相続手続きそのものを金融機関のパックに任せる案内を受けた場合は、中身の分解を銀行の遺産整理業務は高い?で確認してください。
使う予定のないお金は、急いで動かさない
残った資金に当てがないなら、しばらく普通預金に置いておいて構いません。判断を先送りにしているようで、実は合理的です。相続の全体像が見えるのは、申告が終わったあとだからです。
次に考える価値があるのは、受け取った配偶者ご自身に相続が起きたときのこと(二次相続)です。今回の相続で非課税枠がいくら残ったか、次はどうなるかという点検は、落ち着いてからで間に合います。その手順は死亡保険金を受け取った後にすることにまとめています。
相談現場から|相談員メモ
愛知県内で累計約500件の相続のご相談をお受けしてきました。保険金が振り込まれた直後にいらっしゃる方の多くは、金額の大きさに戸惑っておられます。この段階でお伝えしているのは「まだ何も決めなくていい」ということです。期限があるのは申告と納付だけ。置き場所の話は、そのあとで間に合います。急いで動かした結果、納税のときに現金が足りなくなる。これがいちばん避けたい形です。
まとめ
受け取った保険金は、①申告が要るかを確かめる ②要るなら納税分を別に置く ③葬儀費用の立替を精算する、の順に切り分けます。他の相続人に分ける義務は原則としてありません。残った分の置き場所は、申告の見通しが立ってから決めれば十分です。まず、法定相続人の数を数えて基礎控除を出すところから始めてください。
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※本記事は2026年9月時点の法令・国税庁の公表資料をもとにした一般的な情報の整理です。申告の要否や税額の計算、費目が控除できるかどうかの判断は税理士にご確認ください。金融商品の提案を受けた場合の可否も、ご自身の状況に応じて個別に判断が必要です。