親の銀行口座が認知症で凍結されてしまった場合、お金を引き出す正式な方法は原則として成年後見制度に限られます。ただしこの制度は、一度始めるとやめられないなど、利用前に必ず知っておくべき特徴があります。本記事では、申立ての流れ・必要書類・費用の内訳・期間を具体的に示したうえで、制度のデメリットと、後見を使わずに済むための予防策まで、中立の立場で解説します。
凍結解除の基本:成年後見制度とは
成年後見制度は、判断能力が不十分になった方の財産と権利を守るための公的制度です。家庭裁判所が選任した成年後見人が、本人に代わって預金の管理・解約、介護サービスの契約などを行います。後見人が選任されれば、銀行は後見人による取引に応じるため、凍結された預金も動かせるようになります。なお、判断能力の低下の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型があり、付与される権限の範囲が異なります。すでに意思能力が失われている場合は「後見」類型になるのが一般的です。
申立ての流れ・必要書類・期間
- 事前準備:申立書類一式、医師の診断書(所定様式)、本人の財産目録・収支予定表、戸籍謄本、登記されていないことの証明書などを揃える
- 申立て:本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ(申立てできるのは本人・配偶者・4親等内の親族など)
- 審理:家庭裁判所による書面調査・面接。判断能力の程度に争いがある場合は医師による鑑定が行われることも
- 審判・登記:後見人選任の審判が確定し、法務局で後見登記がされる
- 銀行での届出:後見人が登記事項証明書を持参して届出を行い、以降は後見人名義で取引可能に
申立てから審判までは一般に1〜3か月程度、書類集めを含めると実際に預金を動かせるまで2〜4か月程度を見込むのが現実的です。介護費用の支払いが差し迫っている場合は、このタイムラグを前提に資金繰りを考えてください。
費用の内訳:申立て費用と継続的な報酬
| 項目 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 申立手数料(収入印紙) | 800円 | – |
| 登記手数料 | 2,600円 | – |
| 郵便切手代 | 数千円 | 家庭裁判所により異なる |
| 診断書作成費用 | 数千円〜数万円 | 医療機関による |
| 鑑定費用(必要な場合のみ) | 5〜10万円程度 | 鑑定が省略されるケースも多い |
| 申立書類作成を専門家に依頼する場合 | 10〜30万円程度 | 自分で申立てれば不要 |
| 専門職後見人の基本報酬 | 月額2万円程度〜 | 管理財産が多いと月額5〜6万円程度に増額。本人が亡くなるまで継続 |
見落とされがちなのが専門職後見人の報酬です。仮に月額3万円で5年間続けば合計180万円。凍結された預金を動かすためのコストとしては相当に大きいことがわかります。
誰が後見人に選ばれる?家族がなれないこともある
申立て時に家族を後見人候補として推薦できますが、最終的に誰を選ぶかは家庭裁判所の判断であり、不服申立てはできません。最高裁判所の統計では、親族が後見人等に選任される割合は約2割にとどまり、多くのケースで司法書士・弁護士・社会福祉士などの専門職が選ばれています。特に、①流動資産が多額(目安として数千万円以上)、②親族間に対立がある、③候補者に年齢・健康・経済状況の懸念がある場合は、専門職が選任されやすい傾向があります。また、親族が後見人になった場合でも、預金の大半を信託銀行に預ける「後見制度支援信託(または支援預金)」の利用を求められることがあります。
利用前に知っておくべき5つの注意点(デメリット)
- 途中でやめられない:目的の預金解約が終わっても制度は終了できず、原則として本人が亡くなるまで続きます
- 家族が後見人に選ばれるとは限らない:専門職が選任されれば報酬が生涯発生します
- 財産の使い道が「本人のため」に限定される:家族のための支出や生前贈与・相続税対策は原則できなくなります
- 自宅の売却には家庭裁判所の許可が必要:居住用不動産の処分は後見人の判断だけではできません
- 毎年の報告義務:後見人は家庭裁判所への定期報告が必要で、帳簿付けの負担が継続します
なお、成年後見制度については、必要な期間だけ利用できる仕組みへの見直しが法制審議会で議論されています。将来的には使い勝手が改善される可能性がありますが、現時点では上記の制約を前提に判断する必要があります。
典型例:介護施設の入居一時金が払えないケース
当相談窓口に寄せられるご相談をもとに再構成した典型例です。80代のお父様の施設入居が決まり、入居一時金300万円が必要になったものの、預金はすでに凍結状態。このケースでは、①施設の請求書を持参して銀行に相談し、全銀協指針に基づく例外払出で入居一時金の支払いに対応してもらい、②並行して成年後見の申立てを進めて月々の施設費用の支払い体制を作る、という2段構えで対応しました。例外払出だけに頼ると毎回の交渉になり、安定しないためです。
後見制度を使わずに済むために:凍結前の選択肢
ここまで見てきたとおり、成年後見は確実ですが負担の大きい制度です。だからこそ、まだ本人に判断能力がある段階での備えが決定的に重要です。代理人指名・家族信託・任意後見・生前贈与・生命保険(死亡保険金は凍結・遺産分割の影響を受けない)など7つの選択肢の比較は、ピラー記事認知症による口座凍結とは?銀行の判断基準と防ぐ7つの対策で詳しく解説しています。定期預金が多い方は定期預金は認知症になると解約できない?もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q1. 後見人になれば定期預金も解約できますか?
はい。後見人は本人に代わって定期預金の解約が可能です。ただし使い道は本人の生活・療養・介護のために限られ、家庭裁判所への報告義務もあります。
Q2. 申立ては自分たちでできますか?専門家に頼むべき?
ご自身での申立ても可能です。家庭裁判所の窓口やWebサイトに書式と記載例が用意されています。書類集めの時間が取れない、親族関係が複雑といった場合は、書類作成を司法書士などの専門家に依頼できます(10〜30万円程度)。
Q3. 家族を後見人候補にしたら必ず選ばれますか?
選ばれるとは限りません。財産額が大きい場合や親族間に意見の対立がある場合は専門職が選任される傾向があります。「家族に任せたい」という希望が確実に叶う制度ではないことを前提に、凍結前の任意後見や家族信託も検討してください。
Q4. 成年後見を使うと相続税対策はできなくなりますか?
原則できなくなります。後見人の職務は本人の財産を守ることであり、生前贈与や生命保険への組み替えなど財産を減らす行為は本人の利益に反するとされるためです。相続税対策は判断能力があるうちにしかできない、と覚えておいてください。
Q5. 凍結された口座が複数の銀行にある場合、手続きは1回で済みますか?
成年後見の審判は1回ですみ、選任後は各銀行に登記事項証明書を提示して届出を行えば、すべての口座を後見人が管理できます。銀行ごとの届出は個別に必要です。
まとめ:解除は可能、ただし「予防に勝る解決策はない」
凍結された口座は成年後見制度で確実に動かせますが、数か月の時間と継続的なコスト、そして財産活用の自由を失うという代償を伴います。ご家族に判断能力のある方がいるなら、今のうちに凍結されない仕組みづくりを検討することを強くお勧めします。
本記事は提携行政書士監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。費用・期間は事案により異なります。最新の書式・運用は家庭裁判所にご確認ください。
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